河岸かはぎし)” の例文
君も見給ひし所ながら蘆の青やかに美くしくひたる河岸かはぎしに、さまで高からぬ灯火の柱の立てるなど、余りに人気ひとげ近きがばかりの世界のせきとも思はれがたさふらふよ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
是より一行又かはさかのぼり、れて河岸かはぎし露泊ろはくす、此日や白樺の樹皮をぎ来りて之を数本の竹上にはさみ、火をてんずれば其明ながら電気灯でんきとうの如し、鹽原君其下そのしたに在りて
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
この風やこの雨には一種特別の底深そこぶかい力が含まれてて、寺の樹木じゆもくや、河岸かはぎしあしの葉や、場末ばすゑにつゞく貧しい家の板屋根いたやねに、春や夏には決して聞かれない音響おんきやうを伝へる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
見る/\うち満月が木立こだちを離れるに従ひ河岸かはぎし夜露よつゆをあびた瓦屋根かはらやねや、水に湿れた棒杭ぼうぐひ満潮まんてうに流れ寄る石垣下いしがきした藻草もぐさのちぎれ、船の横腹よこはら竹竿たけざをなぞが、逸早いちはやく月の光を受けてあをく輝き出した。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
此れまで送つた私の過去が果して眞正の詩人の生活であつたか否かは知らない。然し兎に角、社會の何物にも捉れず、花さけば其の下に憩ひ、月よければ夜を徹してゞも水の流れと共に河岸かはぎしを歩む。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)