池畔ちはん)” の例文
そして蓮花はちす池畔ちはんから前の石橋の上までかかると、朱同はアッと顔色を変えた。どこへ行ったのか、主人の子が見えないのである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日曜祭日などは家族づれでにぎわっているが、ふだんはそれほどでもなく、閑散としている。雨上りの後などに、池畔ちはんをぶらつく気分は悪くない。
犬の生活 (新字新仮名) / 小山清(著)
H温泉池畔ちはんの例年の家に落着いた。去年この家にいた家鴨あひる十数羽が今年はたった雄一羽と雌三羽とだけに減っている。
高原 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「梅子さん、貴嬢あなた此辺このあたりらつしやらうとは思ひ寄らぬことでした、」と篠田は池畔ちはんの石に腰打ちおろし「どうです、天はみどりの幕を張り廻はし、地はくれなゐむしろを ...
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
三人でこの池畔ちはんへ来て、色いろと話があり、喬之助の事件も打ちあけていざという場合には手を借りることになっているのだから、お絃は地蔵ヶ池へ飛んで行って
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そして池畔ちはんのわずかだった休息から、今はすっかり暗くなった六区の石畳の道へと出たのである。
地図にない街 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
私たちのいる池畔ちはんは、映画館街のすぐ裏で、手をのばせば通りの人にとどきそうな近さなのであったが、池のふちにぎっしり並んだ夜店がへいのようになっているせいか
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
少年は、そのしなやかな誘いに応じて行きたくもあるし、母の手前をもはばかっていると、美人の姿は飄々ひょうひょうとして池畔ちはんをあちらへ遠ざかり行きながら、その面影と、声とははっきりして
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
藪の中にも山椿の若木が幾本か伸びていたが、池畔ちはんにある古木はその太い根の一部を池に浸し、枝も池の上まで伸ばしてい、花期になると、落ちた花で、池の水が見えなくなるくらいであった。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかし池畔ちはんからホテルへのドライヴウェーは、亭々ていていたる喬木きょうぼくの林を切開いて近頃出来上がったばかりだそうであるが、樹々も路面もしっとり雨を含んで見るからに冷涼の気が肌に迫る。
雨の上高地 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それが一かたまりの濛気もうきとなり、王宮の内へ流れ入ると、やがて池畔ちはんの演武堂にはしり上がり、四、五百体の左慈そのままな姿をもった妖人が、あやしげな声を張り、奇なる手ぶり足ぶりをして
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
怏々おうおうと、まどいながら、彼の脚はもう猿沢の池畔ちはんへ出ていた。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこは楊柳かわやなぎにつつまれている池畔ちはん雨乞堂あまごいどうであった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)