水仕みずし)” の例文
遠い疎林そりんの方から、飛鳥のような迅さの物が大庭をぎって、客殿の北端れにある水仕みずしたちの下屋しもやの軒下へさっと隠れこんだようだった。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上下をすべて切って廻せば、水仕みずしのお松は部屋に引込ひっこみ、無事に倦飽あぐみて、欠伸あくびむと雑巾を刺すとが一日仕事、春昼せきたりというさまなり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「寂光院の水仕みずしをつとめておりましたが、なにしろ、お腹がすきましてねえ、あなた」
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そのほか、水仕みずしや女童の多くも、ちりぢり泣く泣く、各〻の親もとや有縁うえんをたよって、逃げのびていたものとみえる。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だからこの海千山千の代物しろものが、貰いたての女房のような心意気を見せて、この不精者が、おしろいの手を水仕みずしに換えて、輸入のテン屋を排撃して、国産を提供して、おれに味わわせようというのだな。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それぞれの船が夜食にかかる炊煙すいえんだった。そしてこのときだけは、供御くごのために、妃たちもみなともへ出て、水仕みずしや調理につとめ合っていたが、やがてのこと
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ろうやかにはあれど、客どものために、厨で立ち働いていたままの水仕みずしすがた、白芙蓉しろふようの花にも似て——』
たった今まで、召使に交って、厨の内で、煮焚にたきや水仕みずしをしていたことは事実であろう。常の袿衣うちぎを、やや裾高すそだかにくくし、白と紫のひもを、もすそに連れて垂れていた。
あれは、まったくの内気者うちきものよ。くりやにばかりいて、水仕みずしをしたり、酒をあたためたり、ひたすら、客人まろうどたちのお心に染まばやとばかり働いておる。性来、そういう女子おなごなのだ。
ここには中宮ちゅうぐう(皇后の禧子よしこ)もおり、余の女房の小宰相こさいしょうや大納言ノ局もおる。水仕みずしの末の女童めのわらわまで、そもじを見失うたら途方にくれてまどい泣こう。よも六波羅とて、女は追うまい。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むしろその子らにも、生きて還らぬ部下たちにも、一椀の温かい汁でも——と彼女はつい今し方まで、下部しもべたちを指図し、自身も大厨おおくりやに立ち働いて、水仕みずしわざをしていたのであった。
日本名婦伝:大楠公夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おそらくは、百姓の女房たちと同じように、裾短かにくくしあげ、手も水仕みずしのひびあかぎれや、土いじりに荒し、髪のあぶらも眉目みめよそおいも、かえりみる暇はなかったにちがいない……
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)