比喩たとえ)” の例文
生残た妻子の愁傷は実に比喩たとえを取るに言葉もなくばかり、「嗟矣ああ幾程いくら歎いても仕方がない」トいう口の下からツイそでに置くはなみだの露
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「あなたの直線というのは比喩たとえじゃありませんか。もし比喩なら、まると云っても四角と云っても、つまり同じ事になるのでしょう」
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こうして、第一回の空襲によって大和魂やまとだましいを取戻した市民たちは、眼の寄るところへたま比喩たとえで、だんだんと集り、義勇隊ぎゆうたいを組織して行った。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
花に嵐の比喩たとえも古めかしい事ながら、さて只今と相成りましては痛わしゅうて、情のうて涙がこぼれまする事ばかり……。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
毒蜘蛛と云ったのは全く言葉の上の比喩たとえで有ったけれど、学士と云い博士と云い、爾して博士の母までも全くの毒蜘蛛だ。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
獅子いでゆる時は百獣脳裂すというて、王獣がいかって吼える時は小さい獣の頭が砕けるというぐらいでございます、と比喩たとえにも申しますことで
感情の疎隔しているところがあるとすれば、しばらく多少の不適切を忍んで、この比喩たとえをもって申しましょう。
融和促進 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
はえ比喩たとえなぞが牧師によって説出された。薄暗い夕暮時の窓の光をめがけては飛びかう小さな虫の想像。無限に対する人生の帰趣。説教は次第に高調に達して行った。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一時の比喩たとえ、夫婦喧嘩同様な愚痴をお聞かせ申しただけなんでございますから、どうぞ……
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
近く比喩たとえを以てこれを示さんに、不品行によりて徳を害するも、虎列剌コレラ毒に触れて身を害するも、その害は同様なるべし。然るに今虎列剌コレラの流行に際して我が保身の法を如何いかんするや。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
と、なにやら険しい気組で、儀右衛門はギロリと一座を見廻すのだったが、その比喩たとえにぴたりとくるのが、いつぞやの夜、里虹が口にした——風が収まりゃことだぜ——と云った言葉だった。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
酒は百毒の長とか、いや酒は喧嘩製造の道具であるとか酒を飲むと智恵が失くなってしまうとか、種々の比喩たとえあるいは教訓、となごとをいって辞退しないとその媒妁人から大いに罵倒ばとうされる事がある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「いや、それは物の比喩たとえで、わるくとって気にしては困る」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と私は相手の比喩たとえを利用してやった。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
すねきず持ちゃ笹原を走れぬという比喩たとえの通りで、音羽の親藤左衞門を殺した身の上、若し此の事が知れはせぬかと思うからで、茶屋から番傘を借り、山田が差かけ
卑近な比喩たとえをもって申しましょう。ここに無慈悲な継母の手に育って、気兼気苦労を重ねた結果、かりに心のひがんだ娘ができたとする。心がひがんでいるがためにその母親はますますこれを憎む。
融和促進 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
孝行のしたい時分に親はなしという比喩たとえの通り、わたくしが御勘当に成りましてから、お父さまはおかくれに成ったと聞き、一人のお母さまゆえお目にかゝりたいと思って居りましたが
これを試みに再び右の継娘の比喩たとえについて考えてみましょう。
融和促進 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)