棲処すみか)” の例文
旧字:棲處
それが自分の夢のような記憶の中ではニンフの棲処すみかとでも云ったような不思議な神秘的な雰囲気につつまれて保存されているのである。
郷土的味覚 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
所謂牛蒡種の本場なる上宝村双六谷が、もともと護法なる天狗の棲処すみかであったということは、果していかなる意味であろうか。
その時分は荒れ果てて狐狸の棲処すみかとなっていた蛇滝の参籠堂に、行者が籠りはじめたと麓の人がうわさをはじめたのは、もはや百日ほど以前のことです。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「園の遊びごとは」と彼女が言ふ、「プラトンの書に見る楽しみにくらべて物の数には入りませぬ。まことの幸の棲処すみかもえ知らぬ、世の人心のうたてさ。」
ジェイン・グレイ遺文 (新字旧仮名) / 神西清(著)
年々池辺の蛇を食いその棲処すみかを荒らす故、蛇の大親分たる善如竜王が憤って雨を降らさぬと風評したのだ。
かくてゴーゴンの在所ありかを三人の処女から教はつたパーシユーズは、四つの品を携へてゴーゴンの棲処すみかに向つた。いよ/\目的地に来て見ると三つのゴーゴンは熟睡して居る。
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
願うところは後の日この荒野に水湧き出で、野犬の棲処すみか蘆葦あしよしの繁茂する処とならんことである。
帝大聖書研究会終講の辞 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
その頃の駒込から染井辺は、森や田圃で実際、狐狸の棲処すみか、お仲間も少なくなかった。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
かくて、「智慧」の忠言がもはや外面の生活のざわめきに圧へつけられなくなつた頃、彼はただ独り家に帰つて独言つた、「私は今日けふ夢に、同じ様な楽しみのある三つの棲処すみかを得たのだ。 ...
その俺が地下に、ありったけの智能を絞って自己の棲処すみか——窖を営む。
狼疾記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
棄て置けば狐狸こり棲処すみか、さもないまでも乞食の宿、焚火たきびの火沙汰ざたも不用心、給金出しても人は住まず、持余しものになるのを見済まし、立腐れの柱を根こぎに、瓦屋根を踏倒して、股倉またぐら掻込かいこむ算段
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのふもとに展開する山川の実に美しい多様な変化を味わっていると、どうしても日本はやはり八百万やおよろずの神々の棲処すみかであり、英雄の国であり、哲人の国であり
札幌まで (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
当然、自分は、その安達の黒塚の鬼の棲処すみかへ送りつけられて来たものだ。もう退引のっぴきがならない。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
エドムは荒れ果ててペリカンと刺蝟はりねずみと野犬と狼と妖怪の棲処すみかになる。人間らしき人間はなくなってしまって、社会は荒れすさみ、平和と秩序は失せ、流血の大惨事が起るであろう。
帝大聖書研究会終講の辞 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
孤島とを棲処すみかとして、群棲ぐんせいを常とする信天翁あほうどりが今時分ひとりで、こんなところをうろついているというのも変ですから、或いはオホツク海あたりから来た大鷲おおわしが、浦賀海峡を股にかけて
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
自分の生涯を托する安楽な棲処すみかがあるものだと思われてならないのらしい。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)