梳櫛すきぐし)” の例文
この部落の竹細工は全村の分業で、割る家、削る家、編む家、梳櫛すきぐしを組む家、焼絵やきえを施す家、いずれもそれぞれの専業に分れる。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
その毛筋へぽたぽたと血の滴るように見えたのは、約束の口にくわえた、その耳まで裂けるという梳櫛すきぐしのしかもそれが燃えるような朱塗であった。
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
石畳の模様に同の字の紋所染めたる暖簾のれんのかげには梳櫛すきぐしすき油など並びたり。二月十五日は中村座の祝日いわいびとかや。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
宿の浴衣ゆかたに市松の伊達巻だてまき姿で鏡の前にすわりながら、まげのあたまを梳櫛すきぐしでているお久のそばに、老人はビラを膝の上に載せて、老眼鏡のケースを開けたところである。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しみじみと身に染みるもの、油、香水、痒ゆきところに手のとどく人が梳櫛すきぐし。こぼれ落ちるものは頭垢ふけと涙、湧きいづるものは、泉、乳、虱、接吻くちづけのあとのおくび、紅き薔薇さうびの虫、白蟻。
第二真珠抄 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「みっちゃん」とおつねが梳櫛すきぐしを使いながら云った、「失礼よ、なべさんだなんて」
ひとでなし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
二週間ほどして、ある朝銀子は病床のうえに起きあがり、タオルを肩にかけて、かゆみの出て来た頭の髪をほどき、梳櫛すきぐしを入れて雲脂ふけを取ってもらっているところへ、写真師の浦上が入って来た。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
この部落では梳櫛すきぐし色附いろつけに昔から尿を使うといわれる。試験所が命じてアンモニアに置き換えさせたが、思わしく色が出ないという。その後どうしているか。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
しみじみと身に染みるもの、油、香水、痒ゆきところに手のとどく人が梳櫛すきぐし。こぼれ落ちるものは頭垢ふけと涙。湧きいづるものは、泉、乳、虱、接吻くちつけのあとのおくび、紅き薔薇さうびの虫、白蟻。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
かた御殿形ごてんがた、お初形はつがた、歌舞伎形などありと知るべし。次には櫛なり、差櫛さしぐし梳櫛すきぐし洗櫛あらひぐし中櫛なかざし鬢掻びんかき毛筋棒けすぢぼういづれも其一そのいちくべからず。また、鬢附びんつけ梳油すきあぶらと水油とこの三種の油必要なり。
当世女装一斑 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
木曾の藪原やぶはら奈良井ならいくしの産地として名が聞えます。「於六櫛おろくぐし」といい、もとは吾妻あつま村が本場だったといいます。於六という女が作り始めた梳櫛すきぐしであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)