架空かくう)” の例文
けれども将軍の遺書が尽忠報国の架空かくうの美文でうめられていると同様に、彼の小説は型の論理で距離の空白をうめているにすぎない。
デカダン文学論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「われわれ人間は、古今ここんを問はず、東西を問はず、架空かくうの幸福を得るために、みづから肉体を苦しめることを好むものである」と嘆息たんそくしてゐる。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
恐らく架空かくうの人物に違いあるまいと思われる、半七のために塚を作ることについては、いろいろの物語はあった。
真実しんじつ外国干渉のうれいあるを恐れてかかる処置しょちに及びたりとすれば、ひとみずから架空かくう想像そうぞうたくましうしてこれがために無益むえき挙動きょどうを演じたるものというの外なけれども
そこでこのような架空かくうな独断的な国家起源論では満足できないので、経験科学の立場から古代の神話を分析したり、古代法や古代詩を解釈したり、原始社会を研究したりして
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
「どんなけしき? 現実げんじつでなく、架空かくうな、未来みらい世界せかいとでもいうのですか。」
兄の声 (新字新仮名) / 小川未明(著)
もっとも馬琴ばきんの作に「侠客きょうかく伝」という未完物があるそうで、読んだことはないが、それは楠氏の一女姑摩姫こまひめと云う架空かくうの女性を中心にしたものだと云うから、自天王の事蹟じせきとは関係がないらしい。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
架空かくうの影のむなしい自信と力なのだが、それを承知で、だまされ、たわいもない話だが、それでほんとに、いい気なのだから笑わせる。
翌朝よくあさ目をさました時にも、夢のことははっきり覚えていた。淡窓たんそう広瀬淡窓ひろせたんそうの気だった。しかし旭窓きょくそうだの夢窓むそうだのと云うのは全然架空かくうの人物らしかった。
子供の病気:一游亭に (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
架空かくう欺瞞ぎまんや希望的観測の上に政策を立てないためにも不可欠である。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
悠々とアビトのすそを引いた、鼻の高い紅毛人こうもうじんは、黄昏たそがれの光のただよった、架空かくう月桂げっけいや薔薇の中から、一双の屏風びょうぶへ帰って行った。南蛮船なんばんせん入津にゅうしんの図をいた、三世紀以前の古屏風へ。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)