末梢まっしょう)” の例文
それ以後の百星に至っては、おのおの独自の美をつくり出していて歴代の壮観ではあるが、それぞれ少しずつ末梢まっしょう的なものを持っている。
書について (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
夕暮れに海上に点々と浮かんだ小船を見渡すのは悲しいものだ。そこには人間の生活がそのはかない末梢まっしょうをさびしくさらしているのだ。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ところが桜が咲く時分になるとこの血液がからだの外郭と末梢まっしょうのほうへ出払ってしまって、急に頭の中が萎縮いしゅくしてしまうような気がする。
春六題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
芝居じみた一刹那いっせつなが彼の予感をかすかにゆすぶった時、彼の神経の末梢まっしょうは、眼に見えない風になぶられる細い小枝のように顫動せんどうした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
非常時も、このごろのように諸般の社会相が、統制のきびしさ細かさを生活の末梢まっしょうにまで反映して、芸者屋も今までの暢気のんきさではいられなかった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
心が静まるにつれて、麻痺していた末梢まっしょうの神経が働き始めた。そして、まず鼻をうつのは、ほのかな屍臭であった。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「由来の根がどこまで深いかは存じません、事実は由来の根でなく末梢まっしょう齟齬そごするところにあると思いますが」
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
末梢まっしょうにかまっていては、政治はできぬ。要は、根本こんぽんの君とおはなし合いをすすめるにある。そちのような覇力はりょく一方をもって臨んでは、せっかくな和議も無意義。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あらゆる末梢まっしょう的な事を大きくネツゾウして、お上さん達は口々に何かつぶやいているのだ。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
口をそろえて嘖々さくさく称讃したが、かれらの称讃は皆見当違いあるいは枝葉末梢まっしょうであって
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
たまたま背後の支配霊達が、何等なんらかの通信を行うことはありても、その内容は通例末梢まっしょう的の些事さじにとどまり、時とすれば取るに足らぬ囈語げいごやら、とり止めのない出鱈目でたらめやらでさえもある。
鎌倉時代の面は創造力の弱さを暴露した作品であって、そこにはただ生命の実感と縁の少ない誇張のみがある。それは重心が末梢まっしょう神経へ移ったような病的な生活の反映であるといってよい。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
つまり名を捨てて実を取る、名を捨てることによって時代の人心を緩和する、実を取ることによって、やっぱり徳川家が組織の主班である、多少、末梢まっしょうのところには動揺転換はあるにしても
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
波の音も星のまたたきも、夢の中の出来事のように、君の知覚の遠い遠い末梢まっしょうに、感ぜられるともなく感ぜられるばかりだった。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
もちろん末梢まっしょう神経の打算なら、近代の人のほとんどすべてがそれを持っていた。庸三もそれに苦しんでいる一人であった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
自分のからだじゅうの血液ははじめてどこにも停滞する事なしに毛細管の末梢まっしょうまでも自由に循環する。たぶんそのためであろう、脳のほうが軽い貧血を起こして頭が少しぼんやりする。
備忘録 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
仏像の彫刻がただ形式の踏襲に終始し、ただ工人的末梢まっしょう技巧のめまぐるしい累積となり終った時、此の新興芸術たる物まねの生命たる仮面の製作には実に驚くべき斬新の美が創り出された。
美の日本的源泉 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
そのくせ目は妙にさえて目の前に見る天井板の細かい木理もくめまでが動いて走るようにながめられた。神経の末梢まっしょうが大風にあったようにざわざわと小気味わるく騒ぎ立った。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
有機体ではいかなる末梢まっしょうといえども中枢機関と有機的に連関しているので、末梢の変化から根原の変化を推測することのできる場合も少なくないはずである。末梢的と言ってもうっかり見過ごせない。
破片 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
神経の末梢まっしょうが、まるで大風にあったこずえのようにざわざわと音がするかとさえ思われた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そのびりびりと神経の末梢まっしょうに答えて来る感覚のためにからだじゅうに一種の陶酔を感ずるようにさえ思った。「もっとお打ちなさい」といってやりたかったけれども声は出なかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)