木鋏きばさみ)” の例文
生花の日は花や実をつけた灌木かんぼくの枝で家の中がしげった。縫台の上の竹筒に挿した枝にむかい、それをり落す木鋏きばさみの鳴る音が一日していた。
洋灯 (新字新仮名) / 横光利一(著)
あらゆる答はすきのように問の根をってしまうものではない。むしろ古い問の代りに新らしい問を芽ぐませる木鋏きばさみの役にしか立たぬものである。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
むす子は歯牙しがにかけず、晴々と笑っていて、「いいものを見せましょうか」と、台所から一挺いっちょう日本の木鋏きばさみを持ち出した。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
赤坂の方も定めておかわりもなかるべくと存じ申し候。加藤の伯父さんは相変わらず木鋏きばさみが手を放れ申すまじきか。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
上がって来る時に頭をひどく天井にぶっつけた。葡萄酒瓶のかごをかかえて梯子段を上りきった時には、息が切れてしまうような思いをした。それから木鋏きばさみをもって庭へ行った。
土掻つちかきや、木鋏きばさみや、鋤鍬すきくわの仕舞われてある物置にお島はいつまでも、めそめそ泣いていて、日の暮にそのまま錠をおろされて、地鞴じだんだふんで泣立てたことも一度や二度ではなかったようである。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
村の人となって程なく、二尺余の杉苗を買うて私は母屋おもやの南面に風よけの杉籬すぎかきいました。西の端に唯一本木鋏きばさみを免れた其杉苗が、今は高さ二丈五尺、みきふとさは目通り一尺五寸六分になりました。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
顏がにがりきツた。途端とたんにチヤキ/\木鋏きばさみの音がする。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
片手には、頑丈な、さびの出た、木鋏きばさみを構えている。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)