木遣きやり)” の例文
本名は誰も知らない、何をして暮すのか、ただ遊んで、どこともわず一群ひとむれ一群入り込むきおい壮佼わかものに、時々木遣きやりを教えている。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三羽のとんびしきりいて舞っている空高く、何処どこからともなく勇ましい棟上むねあげの木遣きやりの声が聞えて来るのであった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
木遣きやりを自慢にうなるものもある、一貫三百を叩き出すものもあろうという景気は、到底人間業とは見えませんでした。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一了簡あり顔の政が木遣きやりを丸めたような声しながら、北に峨々ががたる青山せいざんをとおつなことを吐き出す勝手三昧ざんまい、やっちゃもっちゃの末はけんも下卑て、乳房ちちふくれた奴が臍の下に紙幕張るほどになれば
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
大坂やわれをさなうて伯母上が肩にすがりし木遣きやり街かな
短歌 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
あれわいさの、どつこいしよの、堀抜工事の木遣きやりの車
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
木遣きやりの音頭だ。
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幾時いくときの後なりけん、山道切拓きりひらき工事(拳大の石を一つ掘り出すこと)がようやく終ると、木遣きやりの声がする。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あんねえ、何んでも構わん、四五人木遣きやりいて来い。」
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
木遣きやりくずしのような音頭がある。一天四海の太鼓の音らしいのも聞える。思うにこのおびただしい人数は昨夜一晩、踊って踊り抜いてまだ足りないで、ここまで練って来たものらしい。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
木遣きやりで送り出し、水は大仰にかいほすやら、橋をかけるやら——万事この調子で、道のり四五町のところを、正午ひる頃から出て、暮方になって家に着く——主として熱田西浦東浦に行われる風習を
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこへ、またも全浅間の湯を沸かすようなにぎわいが持込まれたのは、塩市を出た屋台と手古舞てこまいの一隊が、今しもこの浅間の湯へ繰込んだということで、遥かに囃子はやしの音が聞える、木遣きやりの節が聞える。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
木遣きやりの声、建前の音ではや一村が沸いている。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)