晦渋かいじゅう)” の例文
旧字:晦澁
手段のために主要な意志の表示が不自由になり、迂遠うえんになり、あるいは晦渋かいじゅうになるようでは、決して最上の手段といわれないのです。
そこにある程度まで晦渋かいじゅうと抵抗とがまぬがれがたく、甘脆かんぜい軽快な読物にのみ慣れた読者には取りつきにくい点がなくもない。
そこにある程度まで晦渋かいじゅうと抵抗とがまぬがれがたく、甘脆かんぜい軽快な読物にのみ慣れた読者には取りつきにくい点がなくもない。
頬被ほおかぶりもよせ。この世の中に生きて行くためには。ところで、めくら草紙だが、晦渋かいじゅうではあるけれども、一つの頂点、傑作の相貌を具えていた。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
平易な俳句をかえって晦渋かいじゅうならしめるような議論は私の取らざるところで、意味を解釈する上においては決してそう難しくはないのであります。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
もともと地唄じうたの文句には辻褄つじつまの合わぬところや、語法の滅茶苦茶めちゃくちゃなところが多くて、殊更ことさら意味を晦渋かいじゅうにしたのかと思われるものがたくさんある。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
極めて晦渋かいじゅうな第二国語として、殆、詩人圏だけに通用する階級語のようになって行くのではないかと思う。平易明快なばかりが、詩の価値ではない。
詩語としての日本語 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
俳優は皆奇異なるかつらと衣裳とのために身体の自由を失ひたるものの如く、台詞せりふの音声は晦渋かいじゅうにして変化に乏しきことさながら僧侶そうりょ読経どきょうを聞くのおもいありき。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
シゲティーの特色はむしろ前者のレコードにあるが、近代楽の晦渋かいじゅうさに恐れる人はしばらく後者を座右に備えて、シゲティーの芸術境を味わうのも良かろう。
併し文章を故意に晦渋かいじゅうにするのも、畢竟ひっきょうするに、文章を晦渋にしたために小説の効果をあげ、ひいては小説全体として逆に明快簡潔ならしめうるからに他ならない。
確かに『源氏』の文章の晦渋かいじゅうは、作者の責任であって、我々が語学の力の不足のゆえにのみ感ずるのではない。このことは『枕草紙』との比較によっても明らかである。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
今から考えてみると妙な話であるが、紀平さんの『認識論』などという、晦渋かいじゅうをきわめた本が、ひどく深遠に見えて、三度くらいも繰り返して熟読これ務めたものであった。
私の読書遍歴 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
最も晦渋かいじゅうを極めたのは、かの銀太金太の二人の若者のばあいである。前述の如く、両名はこの長屋で出生してこの長屋で育成し、幼年期、青年期と通して、親密に月日を送った。
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼等はいて詩語を晦渋かいじゅうし、意味を不分明の中に失わせて、自ら象徴だと信じていた。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
私はこの頃生活が晦渋かいじゅうしてはかどりかねているかたちです、どうも私の起こす感情には affection が多くて確かでない。もっとたしかに、甘えずに——と、こう考えています。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
狡猾こうかつなる似而非えせ予言者らは巧みにこの定型を応用する事を知っている。しかしルクレチウスは彼の知れる限りを記述するに当たって、意識的にことさらに言語を晦渋かいじゅうにしているものとは思われない。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
此は唯この詩の場合に限ったことではなく、凡象徴派の詩である以上は、誰の作品、誰の訳詩を見ても、もっと難解であり、晦渋かいじゅうであるのが、普通なのである。
詩語としての日本語 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
やや晦渋かいじゅうであるが、その傑作は二、三にして止らず、俗耳ぞくじは楽しませなくとも、音楽的教養の高い人を飽かせないだけの美しさと純粋に芸術的な良さを持っている。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
結局あの晦渋かいじゅうな原文が、僕の手にかかると明快至極なものになり、原文を知らない人々が讃嘆したものであるが、分らぬ所を抜くのだから明快流麗、無茶な話であった。
青い絨毯 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
それからいたずらに複雑に文字をつかったりまた晦渋かいじゅうで難解であったりすることは、俳句本来の性質をわきまえないものだと思います。俳句は十七字で簡単なものであります。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
人間は、めしを食べなければ死ぬから、そのために働いて、めしを食べなければならぬ、という言葉ほど自分にとって難解で晦渋かいじゅうで、そうして脅迫めいた響きを感じさせる言葉は、無かったのです。
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「甲某の論文は内容はいいが文章が下手へた晦渋かいじゅうでよくわからない」
科学と文学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
原曲は幾分皮肉で晦渋かいじゅうではあるが、コルトーの演奏は、征服的で世にも美しい。『胡蝶の舞』はシューマンの初期の作品で、面白いものではあるが、さして重要なレコードでない。
私が卑近な平易な句作法をお話しいたしたことは、晦渋かいじゅう迂遠うえんな俳論をして諸君を一夜作りの大家にするよりも、諸君の良友をもって自らを任じておるゆえんだと考えるのであります。
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
録音が非常に古いために、少し晦渋かいじゅうになり過ぎているが、名演奏には相違ない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
何となく親しめる良さを持った人であるが、ただ、ドイツの晦渋かいじゅうな音楽をやると、簡単に片づけてイージーになるのが欠点である。しかしイギリス的のものには一種の才能と良き趣味がある。
その作品を暗く晦渋かいじゅうにしたが、それだけに、内面的で、思想の裏付けがしっかりしているために、この人の音楽ほど興味の底の深いものはなく、この人の音楽ほど、純粋に芸術的なものは少ない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)