時代ときよ)” の例文
主人玄龍の部屋は、いつぞや内儀の時代ときよが死骸になつて横たはつて居た部屋で、その奧にはこれも殺された娘のお玉の部屋が續きます。
いかに時代ときよが違うとは言いながら昔の人はなぜそんなに潔く自分の身を忘れて、世間のために尽すというようなことが出来たのであろう。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
熾盛さかんな青春の時代ときよに逢ひ乍ら、今迄経験であつたことも無ければ翹望のぞんだことも無い世の苦といふものを覚えるやうに成つたか、と考へると
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
したが、これも時代ときよとあきらめるがいぞよ。これさ、うのたかのつて世間せけんくちにか〻るではないか、そんなこははせぬものぢや
「だが、これも時代ときよ時節じせつというもの、そのうちにはまたいいこともめぐってきましょう。あまりきなきな思って、あなたまで煩わぬようにされるがようござりましょうぞ」
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
まったく時代ときよじせつとは申しながら、御自分さまのおためにもけっこうなことでござりました。
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いつの時代ときよなりけん。紀の国三輪が崎に、大宅おほやの竹助といふ人在りけり。此の人海のさちありて、海郎あまどもあまた養ひ、はたひろき物をつくしてすなどり、家豊かに暮しける。
すくひの爲なれば惡病人あくびやうにんは勿論五十二類の者迄にも御教化けうげ遊ばされしと承りしと云に役僧は益々ます/\いかり其方は高慢かうまんの儀を云やつかな釋迦しやかの時は釋迦の時今の時代ときよは又今の時代なりと申を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
自分のおやたちが長く覚え伝へ語りついで、かうした世に逢はうとは考へもつかなかつた時代ときよが来たのだと思うた瞬間、何もかも見知らぬ世界に住んでゐる気がして、唯驚くばかりであつた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
三十そこ/\の若さのせゐもあるでせう、丸々と肥つた、色白の愛嬌者で、時代ときよに此べると、遙かに世俗的で、そして男好きのする、世に謂ふ娼婦型の美女でした。
自身のおやたちが、長く覚え伝え、語りついで来た間、こうした事に行き逢おうとは、考えもつかなかった時代ときよが来たのだ、と思うた瞬間、何もかも、見知らぬ世界に追放やらわれている気がして
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
あの踊り子あがりの時代ときよといふ女を引き入れ、同じ屋根の下で、人もなげに振舞つたのでございます。