やさ)” の例文
「そう! じゃ今度、ワン・ステップの時に譲治さんと踊って上げるわ、ね、いいでしょう?………ワン・ステップならやさしいから」
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「ぼくにはずいぶんやさしいと思えますよ。あなたのお母さまが読んでいらっしゃるときに聞いていて、ぼくはたいていおぼえました」
とうさま、両方の手に持つて引張つたり、縮めたりしさへすればようく鳴るんですよ、やさしいの、いつでもおとうさまにひいてあげ升よ。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
(ドクトルといっしょに、デスクのほうへ歩を移す)ねえドクトル、紙の上で哲学者になるのはやさしいが、実際となるとじつにむずかしいですね!
従来のかたき役たる悪入道を描くのならやさしいが、「新・平家物語」では、彼はさような入道でないことになっている。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そりゃあ、誰だって他人のして居る仕事はやさしくって苦労がなくっていい様に羨しい様な気がするにきまってる。
千世子(三) (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
もっとも、本当に本当のことを云うのも実はそうやさしくはないと思われるが、それでも本当に本当らしい嘘を云うことの六かしさに比べれば何でもないと思われる。
雑記帳より(Ⅱ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
霜の結晶ならば割合にやさしく出来るであろうという気がしたので、先ず人工霜を作り、それから雪の生成機構を推測する方へ仕事をすすめることとしたのである。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「だがね、ひどい風だとか雨だとか云つて、僕がこのやさしい仕事をつて置くとしたら、僕が行かうとしてゐる將來に對して、そんな怠慢が何の準備になるだらう?」
そうしてこれが奥羽というと何か暗い気持ちを伴わせる原因となり、北の雪国は貧しい地方だという聯想を誰の胸にも刻ませました。実際それらの国の生活はなまやさしいものではありません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
しかし、窮鼠きゅうそが猫をむのたとえもあるから、檻の虎の料理は、やさしきに似て、下手をすれば、咬みつかれる怖れがある。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしこの「嘘をつかない」という精神的な躾を、身につけさせることは、本当はそうやさしいことではない。正直という道徳を知らすことは、教壇からの講義でできる。
六三制を活かす道 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
一女人の口をもって、将軍綱吉をうなずかせることは、どんな閣老や若年寄がやるよりもやさしかった。この間に、柳沢吉保という天下一の出頭人も、勢力をひろげ出した。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
世間ずれない公卿の感情を左右することは、吉次のような男には嬰児あかごをあやすよりやさしかった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(……ははあ? 絵もなかなかやさしくないものだ)
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)