施与ほどこし)” の例文
ああ、少年は火葬場に骨拾いに来る人を待ち受けて施与ほどこしを貰うために、この物淋しい月の夜をこんなところに彷徨うろついているのだ。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
施与ほどこしということは妙なもので、ほどこされた人も幸福しあわせではあろうが、施した当人の方は尚更心嬉しい。自分は饑えた人をつかまえて、説法を聞かせたとも気付かなかった。
朝飯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
おゝ金子かねだ、大層たいそうつてやアがるナ、もう死ぬとふのでおれ見舞みめえつてやつたから、金兵衛きんべゑさんにこれだけ残余あとはお長家ながやしゆうへツて、施与ほどこしでもするのか
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
施与ほどこしには違いなけれど、変な事には「お禁厭まじないをして遣わされい。虫歯がうずいて堪え難いでな。」と、成程左の頬がぷくりとうだばれたのを、堪難いさまてのひらで抱えて
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ジャン・ヴァルジャンはそこに歩み寄って、いつもの施与ほどこしを手に握らしてやった。乞食は突然目を上げて、じっとジャン・ヴァルジャンの顔を見つめ、それから急に頭をたれた。
しかし、クリストフの困窮を見て取ったことや、その御馳走が施与ほどこしに等しいことを、どしりと胸にこたえさせるような態度だった。クリストフは、たとい餓死するともそんなものを受けたくなかった。
施与ほどこしをするごとき心に
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
施与ほどこしには違ひなけれど、変な事には「お禁厭まじないをしてつかはされい。虫歯がうずいて堪へがたいでな。」と、成程なるほど左のほおがぷくりとうだばれたのを、堪難たえがたさまてのひらかかへて
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)