はじ)” の例文
或ははじき合うのかと、その両方から味ってそこにある関係への判断をも自分の心の世界の中のものとしてゆく、それを云うのだと思う。
姫は直に不死不滅といふ題を命ぜり。材には豐なる題なりき。しばしうち案じて、絃をはじくこと二たび三たび、やがて歌は我肺腑より流れ出でたり。
すると雪子はばねにはじかれたように起ちあがって、ずかずか私の耳のところまでやってきて低声こごえで私にこう言った。
秘密 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
私が向き直ると、ヤコフ・イリイッチは一寸苦がい顔をして、汗ばんだだぶだぶな印度藍のズボンを摘まんで、膝頭をはじきながら、突然こう云い出した。
かんかん虫 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
彼女ははじかれたやうに立ち上つた、そして遠野の方を向きながら少しふるへを帯びた声で
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
硝子ガラスは湯気で曇っているが、飛白かすり目にその曇りをはじいては消え、また撥く微点を認めた。みぞれが降っているのだ。娘も私の素振りに気がついて、私と同じように天井硝子てんじょうガラスを見上げた。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その梁のよこたわった向うには、黒煙くろけむりが濛々と巻き上って、しゅはじいた火の粉さえ乱れ飛んでいるではございませんか。これが私の妻でなくて誰でしょう。妻の最期でなくて何でしょう。
疑惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
が、つひにあたりの葉の深い松の木を探してその蔭に引込まねばならなかつた。急に雨の粒が大きく荒くなつて來たのである。然し、一度落ち着いた心持をはじき立てるほどの降りかたでもなかつた。
門扉の外でタイアが砂利をはじきとばす音がすると、守衛が特別な鍵で門をあけ、そこから自動車が一台内庭へ入って来た。
乳房 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
されど窟墓の一語は忽ち少時の怖ろしき經歴を想ひ起すなかだちとなりぬ。フエデリゴとの漫歩そゞろありきより地下に路を失ひたる時の心の周章など、悉く目前に浮びぬ。われは直ちに絃をはじきて歌ひ出でぬ。
その娘さんには主人と雇人との利害のはじき合う面だけが感じられて、しかも、自分にとって不利を与えられたことの怒りだけに立って、その気持に自分をまかせ切っているのであった。
女の自分 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
今かく物語する時間の半をだに費さずして、景は情を生じ、情は景を生ずるほどに、我は絃をはじきたり。情景は言の葉となり、言の葉は波起り波伏す詩句となりぬ。且我が歌ひしところを聽け。
現実の問題として、ここでもバックの眼があおく皮膚が白いことは、皮膚の黄色い民衆から彼女をはじき出していないのである。バックと同じ眼の色、皮膚の色をもったアグネスがそうである通りに。
イギリス人とフランス人、特にドウデエなどがまざまざと特徴づけている南フランスの血が、ファブルの気象の中で境遇的にもダアウィンとはじき合ったことは人間生活の画面として無限に興味がある。