たわわ)” の例文
西明寺を志して来る途中、一処、道端の低いあぜに、一叢ひとむら緋牡丹ひぼたんが、薄曇る日に燃ゆるがごとく、二輪咲いて、枝のつぼみの、たわわなのを見た。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
というのは、そのすくすくと伸びた栗の木の枝には、なんと五寸釘のようなとげをもったお祭り提灯のような巨大ないがが、枝もたわわに成っているのである。
火星の魔術師 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
湿気を含んだ冷たい風が壇の四隅の笹竹をたわわにゆすって、暗い空の上から大粒の雨がつぶてのように落ちてきた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
乱れて咲いた欄干のたわわな枝と、初咲のまましおれんとする葉がくれの一輪を、上下うえしたに、中の青柳は雨を含んで、霞んだたもとを扇に伏せた。——
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お葉は更にって縁先えんさきに出た。左の手には懐紙ふところがみを拡げて、右のかいな露出あらわに松の下枝したえだを払うと、枝もたわわつもった雪の塊は、綿を丸めたようにほろほろと落ちて砕けた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あの、その上を、ただ一条ひとすじ、霞のような御裳おすそでも、たわわに揺れる一枝ひとえだの桂をたよりになさるあぶなさ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……きざはしの前に、八重桜やえざくらが枝もたわわに咲きつつ、かつ芝生に散って敷いたようであった。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)