つら)” の例文
彼女は自分の娘婿をつらまえて愚図だとも無能やくざだともいわない代りに、毎月彼の労力が産み出す収入の高を健三の前に並べて見せた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
權「世話アやかす奴だな、それつらまれ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ひとから頼まれて男より邁進まいしんする場合もあった。しかしそれは眼前に手で触れられるだけの明瞭めいりょうな或物をつらまえた時に限っていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
とひょろ/\よろけながら肩へつらまる。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
人間の内側はどうでも、外部そとへ出た所だけをつらまえさえすれば、それでその人間が、すぐ片付けられるものと思っているからさ。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今からでもこういう光景を二度三度と重ねる機会はつらまえられるではないかと、同じ運命が暗に僕をそそのかす日もあった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
主人はまた書斎から飛び出してこの君子流の言葉にもっとも堪能かんのうなる一人をつらまえて、なぜここへ這入るかと詰問したら
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ことに千代子は躍起やっきになった。彼女は僕をつらまえて変人だと云った。母を一人残してすぐ帰る法はないと云った。帰ると云っても帰さないと云った。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「じゃ何だい、そんな暗い所で、こそこそ御母さんをつらまえて話しているのは。おい早くあかるい所へつらを出せ」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これが世間もっとも普通の商売であると社会から公認されたような態度で、わるびれずに往来の男をつらまえる。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夕食後ちょっと散歩に出て帰って来ると、まだ自分のへや這入はいらない先から母につらまった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もし木戸から迂回うかいして敵地を突こうとすれば、足音を聞きつけて、ぽかりぽかりとつらまる前に向う側へ下りてしまう。膃肭臍おっとせいがひなたぼっこをしているところへ密猟船が向ったような者だ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小供の時分喧嘩をして、餓鬼大将がきだいしょうのために頸筋くびすじつらまえられて、うんと精一杯に土塀どべいし付けられた時の顔が四十年後の今日こんにちまで、因果いんがをなしておりはせぬかとあやしまるるくらい平坦な顔である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
父はそれらを縁側えんがわへ並べて誰をつらまえても説明をおこたらなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこでさいつらまえて、紛失ふんじつした物を手帳に書き付けている。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)