“抹(なす)” の例文
野と山にはびこる陽炎(かげろう)を巨人の絵の具皿にあつめて、ただ一刷(ひとはけ)に抹(なす)り付けた、瀲灔(れんえん)たる春色が、十里のほかに糢糊(もこ)と棚引(たなび)いている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
橋口君が唸りたい一方なら、この中老は抹(なす)りたい一方で、斯ういう会合には落款(らっかん)まで懐中に忍ばせている。真(まこと)に用意周到なものだ。
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
夕方は、まんまるな紅(あか)い日が、まんじりともせず悠々(ゆうゆう)と西に落ちて行く。横雲(よこぐも)が一寸一刷毛(ひとはけ)日の真中を横に抹(なす)って、画にして見せる。最早(もう)穂(ほ)を孕(はら)んだ青麦(あおむぎ)が夕風にそよぐ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
浮び出てはおぼれながら暑い色を抹(なす)り[#「抹(なす)り」は底本では「※(なす)り」]
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
ちらと抹(なす)つたセエヌ川……
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ちらと抹(なす)つたセエヌ川。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛、与謝野晶子(著)
西北の空が真暗になって、甲州の空の根方のみ妙(みょう)に黄朱(おうしゅ)を抹(なす)った様になる時は、屹度何か出て来る。已(すで)に明治四十一年の春の暮、成人(おとな)の握掌大(にぎりこぶしほど)の素晴しい雹が降った時も然(そう)だった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
ちらと抹(なす)つたセエヌ川。
巴里の旅窓より (旧字旧仮名) / 与謝野晶子(著)