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なす
野と山にはびこる
陽炎を巨人の絵の具皿にあつめて、ただ
一刷に
抹り付けた、
瀲灔たる春色が、十里のほかに
糢糊と
棚引いている。
橋口君が唸りたい一方なら、この中老は
抹りたい一方で、斯ういう会合には
落款まで懐中に忍ばせている。
真に用意周到なものだ。
夕方は、まんまるな
紅い日が、まんじりともせず
悠々と西に落ちて行く。
横雲が一寸
一刷毛日の真中を横に
抹って、画にして見せる。
最早穂を
孕んだ
青麦が夕風にそよぐ。
浮び出てはおぼれながら暑い色を
抹り[#「
抹り」は底本では「
※り」]
西北の空が真暗になって、甲州の空の根方のみ
妙に
黄朱を
抹った様になる時は、屹度何か出て来る。
已に明治四十一年の春の暮、
成人の
握掌大の素晴しい雹が降った時も
然だった。