なげ)” の例文
如何にも其様そんな悪びれた小汚い物を暫時にせよていたのがかんに触るので、其物に感謝の代りに怒喝を加えてなげてて気をくしたのであろう。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
猫頭巾——なげ頭巾のいずれでもなく、まして女性の専用とした突盔とっぱい頭巾のいずれでもなく、近代形の韮山にらやま頭巾でもない。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
藤吉郎も、聴けばりない用務に飽いたらしい。きょうは家臣達へそういって一切をなげやった姿である。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
如何なる場合もこの目的のために一命をなげうって努力すること、このスパイたることは、絶対に他人にらしてはならぬのみか、同志であるものを発見したときといえど
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
自分は晋太郎の養育になにもかもうち込もう、あらゆるものをなげうってこの子を生かすのだ。
菊屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
人工の機械で、何うしてこんな大きな石を、こんなに高くまでなげる事が出来るものか、人間の力では一遍だつて出来ない事を、噴火山は手玉に取るやうに繰り返し/\何遍もやる。
上の窓から花をなげる、まるで紐育ニューヨーク人が空のリンディを迎えるような熱狂ぶりだった。
又柵のそばへ寄つて行く。二人ふたり三人さんにんになつた。芝生のなかでは砲丸なげが始つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
が、やがて手近の卓子テーブルの上へ、その雑誌をばたりとなげると、大事そうに上衣うわぎの隠しから、一枚の写真をとり出した。そうしてそれを眺めながら、蒼白い頬にいつまでも、幸福らしい微笑を浮べていた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
政子は読み終るとすぐ、細かに裂いて、のなかで小さいまりとしてしまった。そして、かやのまえへそれをぽんとなげると、萱はすぐそれを拾ってどこかへ隠してしまった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこまで読むのが精いっぱいだった、全身ぶるぶる震いだしながら、思わずその手紙を鷲掴わしづかみにして、「ひどい」と呟やく頭上へ、まるで石でもなげうつように罵言ばげんが飛んできた。
恋の伝七郎 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ゑゝなげやうかと云ふかとおもへば、何して呉れうと腹立つ様子を傍にてお吉の見る辛さ、問ひ慰めんと口を出せば黙つて居よとやりこめられ、詮方なさに胸の中にて空しく心をいたむるばかり。
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
数人の酒場男タベルネイロ酒場女タベルネイラが、この、戦時そのままの騒ぎを引き受けて、酒をつぐ・グラスをなげる・金をひったくる・お釣りを投げる・冗談を言い返す・悪口もかえす・喧嘩の相手もする・自分も呑む。