戸籍こせき)” の例文
固有の背水癖で、最初戸籍こせきまでひいて村の者になったが、過る六年の成績をかえりみると、儂自身もあまり良い村民であったと断言は出来ない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
何か名句を一ツ書いて戴けませんかと、戸籍こせきしらべの折、頼まれたのだが、そのままになって、その巡査氏も何時いつからかもう変ってしまった。
落合町山川記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
それで戸籍こせき面の記載きさいでは、文久三年に生れ、明治十年に十五歳で今橋三丁目浦門喜十郎のもとから津村家へとつぎ、明治二十四年に二十九歳で死亡している。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
とかくは有金ありがねなにほどをけて、若隱居わかいんきよべつ戸籍こせきにと内〻うち/\相談さうだんまりたれど、本人ほんにんうわのそら聞流きゝながしてらず、分配金ぶんぱいきんは一まん隱居いんきよ扶持ぶち月〻つき/″\おこして、遊興ゆうけうせきへず
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
寺に戸籍こせきのあつた時代では、簡單に前身や身分を洗ふ工夫もつかなかつたのです。
私はもう長い間、一人で住みたいとう事を願ってくらした。古里も、古里の家族たちの事も忘れ果てて今なお私の戸籍こせきの上は、真白いままで遠い肉親の記憶きおくの中からうすれかけようとしている。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
寺に戸籍こせきのあつた時代で、祝言も仲人もなく、勝手に後家と一緒になつた場合は、世間への名聞も憚つて、表向は後取りと言へないわけで、それをおもんぱかつて、源左衞門は店や藏の讓受を
銭形平次捕物控:282 密室 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
もっとも、寺に戸籍こせきのあった時代で、祝言も仲人なこうどもなく、勝手に後家ごけといっしょになった場合は、世間への名聞もはばかって、表向は後取あととりと言えないわけで、それをおもんぱかって、源左衛門は店や蔵の譲受ゆずりうけ
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)