我武者羅がむしゃら)” の例文
巡礼者の大群はアラビヤの沙漠を横断して、聖地へ向って、我武者羅がむしゃらな旅行をはじめる。信仰の激しさが、旅行の危険よりも強い。
勉強記 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
熱い味噌汁をすすりながら、八五郎は肩をそびやかします。この男の取柄とりえは、全くこの忠実と、疲れを知らぬ我武者羅がむしゃらだったかも知れません。
市中の電車に乗って行先ゆくさきを急ごうというには乗換場のりかえばすぎたびごとに見得みえ体裁ていさいもかまわず人を突き退我武者羅がむしゃらに飛乗る蛮勇ばんゆうがなくてはならぬ。
と、我武者羅がむしゃらに、柵を目がけ、戦友のかばねを踏んで、跳びかかって来る勇士も、驟雨しゅううのような弾道の外ではあり得なかった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兎に角片羽かたわになる前の織部正は我武者羅がむしゃらな餓鬼大将のような性質で、こんなにいじけてはいなかったのである。
ひどく、しゃくり上げる声がして、もっと何か云いながら裏口から我武者羅がむしゃらに駈け出す物音である。
道づれ (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
その無鉄砲な我武者羅がむしゃらなところが喜多流だと思って喜んでいるのだから困りものですよ
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「なんのそんなことがございますものか、そのお美しいご前様が、ニッコリお笑いなされたが最後、どんな我武者羅がむしゃらな男でも、そのままグニャグニャと骨なしになって、乱暴するは愚かなこと、いつくばうでございましょうよ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
紫陽花あじさいのような感じのする娘お妙が、不自由な足を引摺ひきずってお勝手へ出て来ると、父親の袂を引いて、その我武者羅がむしゃらな強気を牽制しながら
文芸の道は天賦てんぷの才なくてはかなふべからず、その才なくして我武者羅がむしゃらに熱中するは迷ひにして自信とはいひがたかるべし。これおのれを知らざる愚の証拠なり。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
いかに我武者羅がむしゃらな能登でも、島後どうごから「いざ」という一使がやって来ぬうちは手を下すことも出来ずにいた。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
間に、一人がステッキを口へ突込んで吐かせようと、我武者羅がむしゃらにこじ廻したのだそうだ。
刻々 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
不利な体勢から我武者羅がむしゃらに悪闘してあくまでネバリぬく執拗なところが足りないのだ。
青鬼の褌を洗う女 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
ひじを打たれて、思わず庖丁を取落したお越、次の瞬間には、ガラッ八の我武者羅がむしゃらな膝の下に組敷かれておりました。
とまれ、この暁闇ぎょうあん中天王山一番駈けは、いったい誰が早かったのか、どこの部隊が先駆だったのか、ほとんど我武者羅がむしゃらのあらそいで、後の軍功によるも、記録によるも、皆目、見当がつかない。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)