懸声かけごえ)” の例文
旧字:懸聲
それから土台に敷く大石を、てこで塚のうえに押上げる人夫たちの懸声かけごえなど——夕方の草いきれは陽ざかりよりべつな暑さだった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
爆音のため聞えないけれども、粒はヤッと懸声かけごえをかけて、飛びついて来るように見えた。二人は黙ってそれを眺めていた。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
ドッコイ、ドッコイ、ドッコイショと、じい様のような懸声かけごえをしながらようやく河を渡り、やがて町付まちつきという寒村に来掛かれば、もう時刻は正午に近い。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
二人はこの仕事の間に、たとえ話がないにしろ、軽いにくまぐち懸声かけごえなどをかけて仕事をするのが例だったから。
柿色の紙風船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「さて早や、」と云う懸声かけごえで大和家の格子戸を開けて入る、三遊派の落語家はなしか円輔えんすけとて、都合に依れば座敷で真を切り、都合に依れば寄席よせで真を打つ好男子。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
幾百台の荷馬車が並んで、懸声かけごえいさましく、上熊本駅と熊本駅を行先ゆくさきにして、往復が絶えなかった。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
細い流のある辺に高い台を拵えて、男が頻りに語っているのは、宮本武蔵みやもとむさしの試合か何かのようでした。傍の女の三味線は、そのつなぎに弾くだけで、折々疳走かんばしった懸声かけごえをします。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
全身の力を咽喉のどに集めて、わあと云う懸声かけごえをだした。それを一日に一万べんやることになっていた。彼も他人の使わない洞穴を求めてその懸声をはじめた。そして、空腹になれば木の実を探しに往った。
仙術修業 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
次郎君なかなか元気者でしてな、竹刀しないを握らせると、もう夢中になって打込んでまいりましたわい。ところで、これははじめのうち誰でもそうじゃが、うまく懸声かけごえが出ない。出ても気合がかからない。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
貴所きしょの矢は早まったのだ。何故、懸声かけごえの先に射ったか。」
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
懸声かけごえをかけて立ち上る。入洲に手をつけて、飯粒などをざぶざぶと洗い落す。少年の後について歩き出した。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
薪でも割るときの懸声かけごえみたいに「ワッショッ」と喚いたり「ヤアッ、ホイッ、ヤアッ、ホイッ」と大船のでも漕ぎ出すように斬りこんで来るいのしし武者もある。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてなおも逃げようとするところを、旗男はエイエイと懸声かけごえをして、旗竿の槍を縦横じゅうおうにふりまわした。
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
用なしの身体からだゆえ、客人が其処そこへ寄って、路傍みちばたに立って、両方ともやたらに飛車ひしゃかく取替とりかえこ、ころりころり差違さしちがえるごとに、ほい、ほい、と言う勇ましい懸声かけごえで。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御輿舁みこしかつぎの懸声かけごえをそろえて社を出るように、わっしわっしと、重厚な戦列を押し出していた。そしてはやくも、円明寺川の東岸の藪に迫り、しゃ二無二、敵の中へ駈け入った。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「峰子様、よッ。」と懸声かけごえをするは円輔なり。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すさまじい懸声かけごえを虚空から浴びせた。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)