憎々にくにく)” の例文
癇癪持の蜜蜂は、羽をならしながら憎々にくにくしそうに言いました。さきの日のことを思うと、今になってもまだ腹に据えかねるのでした。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
「俺はお前と別れようと思う」浪人は憎々にくにくしくやがていった。「くらしが変れば心持ちも変る。……俺は成りたいのだ、明るい人間にな」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「うんにゃ、こっちはまだ大有おおありだ」と憎々にくにくしげにあごをしゃくり「貰いたいものを貰ってゆかねば、日本へ帰ってきた甲斐がねえや。——」
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その場かぎりの感情で、物事を切り裁いて行く男の強さが、ゆき子にはいまでは憎々にくにくしい程の魅力になつてもゐる。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
鮓売の女 それでも憎々にくにくしい顔ぢやないか? あんな顔をした御上人が何処どこの国にゐるものかね。
往生絵巻 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
眼の三角形なけわしい顔付かおつきの監督は、憎々にくにくしそうに女を横目で睨んだ。
悪魔 (新字新仮名) / 小川未明(著)
諸戸はやや興奮して、さも憎々にくにくしげに喋って来たが、一寸押黙って、じっと私の目を覗き込んだ。私はその時、彼の目の中には、いつもの愛撫の表情がせて、深い恐怖の色が漂っているのを感じた。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「ああ、それにしても……」丘助手は、博士の門に入ることの出来た喜びを沁々しみじみと感じたことだった。「この憎々にくにくしくそびえ立つ殺人興奮の曲線?」
キド効果 (新字新仮名) / 海野十三(著)
麻緒あさお足駄あしだの歯をよじって、憎々にくにくしげにふり返りますと、まるで法論でもしかけそうな勢いで、『それとも竜が天上すると申す、しかとした証拠がござるかな。』と問いつめるのでございます。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
石段いしだんうえから、おとこが、憎々にくにくしげにどなりました。
石段に鉄管 (新字新仮名) / 小川未明(著)
と、船長ノルマンは、憎々にくにくしげにいいはなって、竹見の襟髪をもったまま、ねこでもあつかうようにふりまわした。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「おう、しかとこの殿じゃ。」と、憎々にくにくしげに答えました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「はッはッはッ」と天井裏の声は憎々にくにくしげな声で笑った。「日本の探偵さんは、案外もろいですネ。……さァ、動くと生命いのちがないぞ。じッとしているんだ」
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
憎々にくにくしい鴨田の声に、須永が尚も懸命に争っているうちに、いつの間に開いたか、入口のドアが開かれ、そこには此の場の光景ありさま微笑ほほえましげに眺めている帆村の姿があった。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「たとえば何だという?」とフョードルが憎々にくにくしげに中尉をにらみつけた。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
ワグナーが、憎々にくにくしげに、語尾に力をこめて艇長にきいた。
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
憎々にくにくしげに云った。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)