憂慮きづかい)” の例文
「おう/\いともなう、安心して一休み休まつしやれ、ちツとも憂慮きづかいをさつしやることはないに、わしが山猫の化けたのでも。」
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
憂慮きづかいをさっしゃるな。いてじいの口にくらおうではない。——これは稲荷殿いなりでんへお供物に献ずるじゃ。お目に掛けましての上は、水に放すわいやい。」
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「さ、さ、そのことは聞えたけれど……ああ、何といって頼みようもない。一層お前、わ、私の眼をつぶしておくれ、そうしたら顔を見る憂慮きづかいもあるまいから。」
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何でも来た方へさえ引返ひっかえせば芳原へ入るだけの憂慮きづかいは無いと思って、とぼとぼって来ると向い風で。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やしきにはこの頃じゃ、そのするような御新姐ごしんぞ留主るすなり、あなはすかすかと真黒まっくろに、足許にはちの巣になっておりましても、かに住居すまい、落ちるような憂慮きづかいもありません。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はい、それに実は何でござります、……大分年数もちました事ゆえ、一時ひととき半時では、誰方もお心付こころづき憂慮きづかいはござりませんが。……貴女には、何をおかくし申しましょう。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おお、そして何よ、憂慮きづかいをさっしゃるな、どうもしねえ、何ともねえ、おら頸子くびったまにも手を触りやしねえ、胸を見な、不動様のお守札が乗っけてあら、そらの、ほうら、」
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くいの上へ板を渡して竹を欄干にしたばかりのもので、それでも五人や十人ぐらい一時いっときに渡ったからッて、少し揺れはしようけれど、折れて落ちるような憂慮きづかいはないのであった。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
社務所には、既に、近頃このあたりの大地主になれらましたる代議士閣下をはじめ、お歴々衆、村民一同の事をお憂慮きづかいなされて、雨乞あまごいの模様を御見物にお揃いでござりますてな。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
よう貴女あんた、これを持つまで、多一さんを思やはった、おんな同士や、察せいでか。——袂にあったら、粗相して落すとならん。憂慮きづかいなやろさかい、私がこうするよって、大事ないえ。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
年寄った腰の立たない与吉の爺々ちゃんが一人で寝て居るが、老後のやまいで次第に弱るのであるから、急に容体の変るという憂慮きづかいはないけれども、与吉はやとわれ先で昼飯をまかなわれては
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
途中不意に卒倒するような憂慮きづかいなし、二人で散歩などが出来るようになったそうです。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
美しい方を見ると、黒鰐くろわに赤鮫あかざめが襲います。騎馬が前後を守護しました。お憂慮きづかいはありませんが、いぎ参ると、斬合きりあ攻合せめあう、修羅のちまたをお目に懸けねばなりません。——騎馬の方々、急いで下さい。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いや、お憂慮きづかいには及びません。」
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)