愴然そうぜん)” の例文
しかも巍の誠を尽し志を致す、其意と其げんと、忠孝敦厚とんこうの人たるにそむかず。数百歳の後、なお読む者をして愴然そうぜんとして感ずるあらしむ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「…………」愴然そうぜんたる白衣びゃくえひと、口はかたく結ばれたまま、その姿は氷のよう、その横顔は死せるようだ。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
明治辛未しんびの三歳、吾がてつ義卿ぎけい身を致せしをること、すでに十三年なり。その間風雲しばしば変わり、つねに中懐に愴然そうぜんたること無きあたわず。十月某日はすなわちその忌辰きしんなり。祭りてこれに告げていう。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
小早川金吾中納言秀秋の血気の上に、愴然そうぜんたる雲がかかる。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そして自分の将来、何の光も無く、色も無く、香も無い、ただ真黒な冷い闇のみの世界を望みては、愴然そうぜん栗然りつぜんとしてこらえきれぬ思いをしたことであったろう。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
成はかくの如き人なり。旗を見るや、愴然そうぜんとして之をそうとし、涙下りて曰く、臣わかきより軍に従いて今老いたり、戦陣をたること多きも、いまかつかくの如きを見ざるなりと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
せつに死し族をせらるゝの事、もと悲壮なり。ここを以て後の正学先生の墓をぎる者、愴然そうぜんとして感じ、泫然げんぜんとして泣かざるあたわず。すなわ祭弔さいちょう慷慨こうがいの詩、累篇るいへん積章せきしょうして甚だ多きを致す。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
愴然そうぜんたる感いと深く、父上母上の我が思いなしにやいたく老いたまいたる、祖母上ばばうえのこの四五日前より中風とやらにかかりたまえりとて、身動きもしたまわず病蓐びょうじょくの上に苦しみいたまえるには
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)