情夫をとこ)” の例文
そして情夫をとここしらへて、嬰児やゝこ生まはつたんや——といふやうなさげすみの意味を言外に匂はしながら、その人が続けるのだつた。
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
……僕等は別に交際もしてゐないから、詳しいことは知りませんけれどもね、何でも、つい一月ひとつきほど前に、細君が情夫をとこと遁げて、先生、えらく失望してゐるといふ話でしたよ。
アカシヤの花 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
大違おほちげエよ、此夏脚気踏み出して稼業かげふは出来ねエ、かゝあ情夫をとこ逃走かけおちする、腰のたゝねエおやが、乳のい子を抱いて泣いてると云ふ世話場よ、そこで養育院へ送られて、当時すこぶる安泰だと云ふことだ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
念入りに洗つて見てくれ。お加奈に情夫をとこがあればそれも洗つて置きたい
『まだ、日が暮れねえのに情夫をとこの話ぢや、天井の鼠が笑ひますぜ。』
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
女性によせいにはなくてならぬ節操みさをといふくぎが一ぽん足りないで、その身体からだ全体に『たるみ』が出来て居る、その『たるみ』がいやしい色を成して居るのだ、それが証拠には自分の前にしづには情夫をとこが有つたらしく
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
自分の少しお凸額でこなのを気にしたり、子供の時に腫物を切つた頬の創痕を悲しんだりして居たが、考へれば、その時すでに姉は情夫をとこを拵へて居たのだ……。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
『まだ、日が暮れねえのに情夫をとこの話ぢや、天井の鼠が笑ひますぜ。』
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「親の恩や義理忘れて来よらんなら、何でその親の言ふこときよらん。親が大切か情夫をとこが大切か。」
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)