悪戯あくぎ)” の例文
旧字:惡戲
保吉はやっと人の悪い主計官の悪戯あくぎを発見した。悪戯?——あるいは悪戯ではなかったかも知れない。なかったとすれば実験である。
保吉の手帳から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
欲望を異にして、目的を同じうするこの悪戯あくぎに似たるほどの奇妙な道連れは、単に道連れとしてはおたがいに頼もしいものでありました。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一見子供らしい悪戯あくぎの裏に、もう一つの意味が、見かけとは似ても似つかぬ、深讐綿々しんしゅうめんめんたる妖鬼の呪が隠されていたのだ。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「ならば別段でもござりませぬが、何者かの悪戯あくぎ——おそらく悪戯と察せられます——で、殺害さつがいされたものでござる」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたし危険区域きけんくいきせんをこえない範囲はんいでよくさうふう悪戯あくぎためしをするのであつたが、しかしまた事実じじつさうかもれないとおもはれないこともなかつた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
コナンドイルや涙香るいこうの探偵小説を想像したり、光線の熾烈しれつな熱帯地方の焦土と緑野を恋い慕ったり、腕白な少年時代のエクセントリックな悪戯あくぎあこがれたりした。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
……あのやからつかまつりまする悪戯あくぎと申しては——つい先日も、雑水ぞうみずに此なる井戸をませまするに水は底に深く映りまして、……釣瓶つるべはくる/\とその、まはりまするのに
雨ばけ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「なに、お命頂戴、ただいま参——と。ふウム」動揺どうようした顔がさッと長庵をふり返って、「これ、長庵、悪戯あくぎにもほどがあるぞ。仮りにも、命を貰うとは何だ。ヤイ、命を貰うとは何だッ」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
一人の弥次馬が、暴行に率先して、悪戯あくぎの範を垂れると、火がつくように浮かされている人間の渦が、いちどに
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女を脅迫している男と、三千子の死体を切断して罪深い悪戯あくぎをやった男とが、全く同一人物であることを、今まで気づかなんだのは、むしろ迂濶千万うかつせんばんであった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
古怪な寒山拾得かんざんじつとくの顔に、「霊魂れいこんの微笑」を見たものは、岸田劉生きしだりうせい氏だつたかと思ふ。もしその「霊魂の微笑」の蔭に、多少の悪戯あくぎを点じたとすれば、それは冬心の化け物である。
支那の画 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ただ人騒がせの悪戯あくぎにしては、余りにご念が入り過ぎているではないか。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)