悪々にくにく)” の例文
旧字:惡々
鷹揚おうように腰を下した、出札の河合は上衣のそでを通しながら入って来たが、横眼で悪々にくにくしそうに大槻をにらまえながら、奥へ行ってしまった。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
悪々にくにくしい皮肉を聞かされて、グッと行きづまって了い、手をんだまま暫時しばしは頭もあげず、涙をほろほろこぼしていたが
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
私は理由もなしに虐待されるのだと思つたときにS先生の悪々にくにくしい朝からの容子ようすを思ひ出さずにはゐられませんでした。
ほんとに悪々にくにくしくなってしまいましたの。もう真琴ちゃんの云う事なんか聞き入れない事にめてしまったの。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
今も今母親の写真を見て文三は日頃喰付たべつけの感情をおこし覚えずも悄然しょうぜんと萎れ返ッたが、又悪々にくにくしい叔母の者面しゃっつらを憶出して又熱気やっきとなり、こぶしを握り歯を喰切くいしば
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
かれ悪々にくにくしそうにつばでもけるような口付くちつきをして。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「ハテそうしては彼娘あれが……」ト文三は少しくしおれたが……不図又叔母の悪々にくにくしい者面しゃっつら憶出おもいいだして、又憤然やっきとなり、「糞ッ止めても止まらぬぞ」ト何時いつにない断念おもいきりのよさ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)