すく)” の例文
良人には、出て行くと云って、踏み出したしきいだし、門の外には、その不気味なものが仆れているので、お市は、そこに立ちすくんでいた。
夕顔の門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
楠平は、手燭をけた。そして揺れる灯をかばいながら、庭へ出て行ったが、主人たちの住む南側の母屋を見て、眼をすくめた。
夕顔の門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
木蔭の男は、すくみを禁じえなかったらしく、へたっと地上にかがまったばかりでなく、帝の眼光にもひしがれて、おもわず平伏してしまった。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、それに輪をかけたお変りように、宰相さいしょうノ清忠は、きもをすくめた。——が、勅のお使いである。あくまでつつしんで。
地を揺り上げられた心地で、はッとすくんだ途端に、小石交じりの土が、焔硝えんしょうのけむりと一緒に、びしゃッと、飛んで来た。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老僧は、まだ何か、いいつづけていたが、馬の大声にすくんで、急に口をつぐんだ。劉備はそのしおに、堂の外へ出てきた。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白匁にすくんでしまつてもいけないのだ。妙に構へてゐてもいけないのだ。春風と柳の葉の樣に睦じくなければ酒をのむかひもない。大勢で飮む樂しみはない。
折々の記 (旧字旧仮名) / 吉川英治(著)
それをもって、わしの寝首をこうと神かけていたものだろう。可恐こわいな。尊氏、大軍は何の怖れともせぬが、こういう目に見えぬところの刃には心もすくむ。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すくあしの田楽役者たちも、ぜひなく、高時の影をめぐり、また、ツレ舞しては、再び踊った、踊り狂った。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こういう寡兵かへいで立ち向ったとき、相手の兵数に呑まれて、身をすくめ、狭地を守り、防ぐばかりを能としていたら、その孤立は完全に、敵の捕捉ほそくにまかすしかない。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
逃げもせずただわそうとのみしてすくめた肩を、高氏の酔いの手がもうワシづかみにつかまえていた。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
公卿はみな、青白く黙り沈んでいるのみだし、後醍醐もまた、きざはしの半ばに釘ヅケにされたていで、この一個の荒武者を、どうするすべもなくお立ちすくみのままだった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、言い払い、ホホとその白い花顔かんばせが闇を占めて笑っているかのよう。……宋江以下、修羅しゅらという修羅の場かずをふんできた梁山泊の男どもも、思わず馬列をすくみ立てて
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
男は、それに、すくみを覚えた。拒否の心理は、意気地なく、男の心の内がわに閉塞へいそくされる。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど、立ちはばんだ廉子やすこの眼に射られて、ついその場にすくんでしまったのである。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若い男女は、すくんだまま、楠平のかんだかい声に、顔いろをおののかせていた。
夕顔の門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
真っ蒼になって——しかし人前をはばかるように、棒立ちにすくんでしまった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よろよろと、立つと、彼方の闇に、凍ったようにすくんでいたお次は
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
恐ろしい父の声に、亀一は気の弱いひとみすくめて、後へ退さがりかけた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
道誉は大ゲサなすくみをみせて、はッと振り向いたが
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はギクと足を立ちすくめた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
新田勢は立ちすく
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)