ふさ)” の例文
旧字:
「幽霊にしては、いやにやかましいね。」彼は「些細なことまで」と云おうとしたのだが、この方が一層この場にふさわしいと思って取り代えた。
その民族はふさわしくも線の密意に心の表現を托したのである。形でもなく色でもなく、線こそはその情を訴えるに足りる最も適した道であった。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
殊更、その風貌ふうぼうは、眉が美しく、鼻梁はなすじが通り、口元が優しくひきしまっているので、どちらかというと、業態ぎょうていにはふさわしからぬ位、みやびてさえ見える。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
真にその名にふさはしき近代劇を有ち得るためには、この意味に於て、暫く日本古来の演劇的伝統より離れ、一応欧米の古典劇へ眼を注ぐべきである。
新劇運動の一考察 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
まことにそこの空気にふさわしいような、それでいて、いかにも研究会などにはあきあきしているような、独特の顔つきの痩形長身の青年が、はじめから終りまで
(新字新仮名) / 原民喜(著)
この北方の都は幸に捨てねばならぬ伝統の桎梏しっこくを持たず、緑の樹間に白雲を望む清澄の空気は、壊滅の後の文化再建を考えるにこの上もなくふさわしいようである。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
彼らは、儀式儀式にふさわしい空気というものを心得ている。葬式では、始めから終りまで悲痛な顔をしていなければならぬ。婚礼では、ミサがすむまで厳粛でなければならぬ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
主人の亡い家に争はれぬ物静かさを持つた、庭木の多い加納の家庭は、和作がこの最初の印象をそつくり保つにはふさはしい場所だつた。和作のいつも通る徳次郎の部屋といふのは二階の六畳だつた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
思うに天のアフロバイテを讃える恋の勝負は造化主の意思の外にあるのであろう。神さまは、ただ十文半の黄皮の短靴の左足は十文半の黄皮の短靴の右足こそふさわしけれ、と思し召すだけに違いない。
アンドロギュノスの裔 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
君はたぶん他の銃の持ち合せもあったであろう、——すなわちもしや数頭の虎が居た場合か、または、それは君にははなはだふさわしくない想定かもしれないが、撃ち損じをした場合の用意として、——
その民族はふさわしくも線の密意に心の表現を托したのである。形でもなく色でもなく、線こそはその情を訴えるに足りる最も適した道であった。
朝鮮の友に贈る書 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
川を越すたびに、橋が墜ちていないのを意外に思った。この辺の印象は、どうも片仮名で描きなぐる方がふさわしいようだ。それで次に、そんな一節を挿入そうにゅうしておく。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
軍人の妻として非常にふさはしいところがあり——これは尊敬した意味でです——その反面には、どうしても軍人の妻では恰好のとれない——これも、軽蔑した意味ではありません
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
実は拙者、貴様のその、突拍子とっぴょうしもない度胸が、惜しくなったのだ。それに、貴様の、必死必殺の気組の底には、ただ喧嘩慣れた、無頼漢ならずものには、ふさわしからぬ、剣気がかくされているような気がする。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
それは真に修道にふさわしい場所であった。淋しさのみが淋しさを慰めるのである。声なくして静かにたたずむ悲母の観音は貴方がたの愛した姿であった。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
それは真に修道にふさわしい場所であった。淋しさのみが淋しさを慰めるのである。声なくして静かにたたずむ悲母の観音は貴方がたの愛した姿であった。
朝鮮の友に贈る書 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
孤篷禅庵にこそ、あの「井戸」の茶碗はふさわしい。見る者に向って常にこの一公案を投げるからである。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)