微瑕びか)” の例文
然れどもゴンクウルは衆にさきんじて浮世絵に着目したる最初の一人いちにんたり。その著歌麿伝の価値はかくの如き白璧はくへき微瑕びかによりて上下じょうげするものにあらず。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
姫宮の教育は最高の女性を作り上げる覚悟で、微瑕びかもない方にして、一生を御独身でお暮らしになってもあぶなげのない素養をつけたいものですね。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
と云ふのは少し大雑把おほざつぱである。牛込うしごめ矢来やらいは、本郷ほんがう一帯の高地にははひらない筈である。けれどもこれは、白壁はくへき微瑕びかを数へる為めにあげたのではない。
日本小説の支那訳 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
殿の御前だというと、小姓たちは瞳を据え息を凝らして、微動さえおろそかにはしなかった。近習の者も、一足進み一足退くにも儀礼を正しゅうして、微瑕びかだに犯さぬことを念とした。
忠直卿行状記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
もとより白璧はくへき微瑕びかに過ぎずして昔ながらの花顔玉容は依然として変らざりしかども、それより以後春琴は我が面上の些細ささいなる傷を恥ずること甚しく、常に縮緬ちりめん頭巾ずきんをもって顔をおお
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
人の書いた立派な著書の中から白玉はくぎょく微瑕びかのような一、二の間違いを見付けてそれをさもしたり顔に蔭で云いふらすのなどもその類であるかもしれない。これは悪口でなく本当にある現象である
徒然草の鑑賞 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
と宮は謙遜けんそんしておいでになったが、においの繊細なよさ悪さをぎ分けて、微瑕びかも許さないふうに詮索せんさくされ、等級をおつけになろうとするのであった。
源氏物語:32 梅が枝 (新字新仮名) / 紫式部(著)
倹約は吝嗇りんしょくに傾きやすく文華は淫肆いんしに陥りやすく尚武はとかくおかまをねらひたがるなり。尚武の人は言ふおかまは武士道の弊の一端なり。白璧はくへき微瑕びかなり。
猥褻独問答 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)