弘法こうぼう)” の例文
そのかわりに、無言のなぞを秘めながら、弘法こうぼう大師のご尊像が正面にうやうやしく掛けられてあるのでした。見ながめるや同時です。
(がぶりと呑んでてのひらをチュウと吸う)別して今日は御命日だ——弘法こうぼう様がすみやかに金ぴかものの自動車へ、相乗あいのりにお引取り下されますてね。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
青摺衣あおずりごろも二領、くつ十足などもあげられているが、弘法こうぼう滅後の風俗変遷を経た後の貞観時代にどれほど天平の面影を残していたかはわからない。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
定雄は歩きながらも、伝教大師でんぎょうだいしが都に近いこの地に本拠を定めて高野山の弘法こうぼうと対立したのは、伝教の負けだとふと思った。
比叡 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「ああ、馬場にしかられた時か。あいつは弘法こうぼうにも筆のあやまりさ。」能勢は、教員の名前をよびすてにする癖があった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
『和州旧跡幽考』に猿沢池は天竺てんじく獼猴池を模せしと、池の西北の方の松井の坊に弘法こうぼう作てふ猴の像あり。
事務員が使い古して棄てる筈のを備えつけるらしい。逓信省ていしんしょうは民衆を一人一人弘法こうぼうさまと心得ている。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それから上州の高崎市には、大師石という一つの霊石があって、その附近には弘法こうぼう大師の作と称する石像の婆様があり、これをしょうずかの婆石といっておりました。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
されば信長公の招きを受けたウルガン伴天連バテレン(おや、またウルガンが現はれたぞ!)弘法こうぼうの好機ござんなれと喜びいさんで京を指してのぼつたが、そのとき摂州せっしゅう住吉のやしろ、たちまち鳴動して
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
浮華軽佻ふかけいちょうな時代のあとには、人はおのずから静思せいしを求めて、遠い弘法こうぼうをしたい、親鸞しんらんをおもい、道元どうげんのあとをさがすのだ——飢饉ききんとなれば、無名な篤農家の業績をあらためて見直したり
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朝のに、御不浄ごふじょうの窓から覗くと、襟の後に手拭を畳んであててはいるが、別段たぼの油が着物の襟を汚すことはなさそうなほど、丸くした背中まで抜き衣紋えもんにして、背中の弘法こうぼうさまのおきゅうあとや
また、弘法こうぼうも。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)