引懸ひっかか)” の例文
だが諸君、ここに一つの問題があると思うのは、誰かのインチキに、まんまと引懸ひっかかったのが自分ではなく、他人の友人か誰かであったとしよう。
麻雀インチキ物語 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「娘の髪が余りキチンとしていますぜ。ちっとも乱れていませんが、能く蘆の間で引懸ひっかからなかッたもので」
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
モンマルトルやサンゼルマンの夜の空に、三笠山みかさやまで眺めたと同じその明月があわれにも電光に色を失って気の毒にも誰れ一人見るものなく、四角な家と家との間に引懸ひっかかっているのだ。
中の様子を気遣いながら、腰をかがめて覗いた。やはりKはペンを動かしていた。折々金ペンの光りが鋭くひらめいた。ペンに力が入って紙の目に引懸ひっかかった時だ。ペンの動く速力は非常に早かった。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
素見ひやかし追懸おっかけた亭主が、値が出来ないで舌打をして引返す……煙草入たばこいれ引懸ひっかかっただぼはぜを、鳥の毛の采配さいはいで釣ろうと構えて、ストンと外した玉屋の爺様じいさまが、餌箱えさばこしらべるていに、財布をのぞいてふさぎ込む
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
赤ん坊は滝壺たきつぼの上のこずえ引懸ひっかかって死んでいたという話である。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
また普通の潜水艦艇では、機雷きらいにぶっつけるかもしれないし、警報装置に引懸ひっかかって所在が知れるし、どうもよくない。
と、足が引懸ひっかかったまま、その場に身体は横倒しになってしまった。そして顔の真正面から、なにか土か灰かのようなものをパーッと浴びてしまった。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
硝子のいだようなふちに、白い毛のようなものが二三本引懸ひっかかっているではありませんか。ぼんやりして居れば見遁みのがしてしまうほどの細いものです。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ただ考えたのは、何とかして、検札けんさつ旅客訊問りょきゃくじんもんあみ引懸ひっかかるまいとして、こそこそ逃げ込むことばかりにこれつとめた。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それはその杙打ちの音が、とんとんとんとんという具合になめらかに行かず、或るところで引懸ひっかかるようにとんとんとんととんという特徴のある音をたてることであった。
東京要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
金博士は、廊下をそのときゆっくり歩いていたが、何のかんがえもなく、この手に引懸ひっかかって、奈落へ……。それから、がちゃん、がらがらと大きな音がして、身は火薬炉の中に密閉されてしまった。