いじく)” の例文
幸雄は手の先については非常に潔癖で、一寸木の枝をいじくっただけでも石鹸で洗った。足の方になるとそれが信じられないほど平気であった。
牡丹 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
おらも、あんつあんと行ぐは。」と一人で土をいじくって遊んでいたよしが、土煙の中から飛び出してヨーギの方へ駈けて行った。
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
今まで死んでいるとばかり思って、いじくり廻していた鳥のつばさが急に動き出すように見えた時、彼は変な気持がして、すぐ会話を切り上げてしまった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そしてその傍にいつもの童子が坐って、糸屑をいじくっては丸めていた。よこ顔がそっくりさッきの家の子に似ていた。
後の日の童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
朝カラ晩マデ足ノ裏ヲアンナニいじくリ廻サレタンジャ、何ボ何デモ溜ラナイワ。タッタ一日デ、アタシヘト/\ニナッチャッタカラ逃ゲ出シタノヨ。御免ナサイネ
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
余り小さくて、可愛く出来ているので、指先でいじくっていますと、シルクハットが螺旋ねじのようになっていてくるくると廻ります。廻しているうちにぽつりと、とれてしまいました。
耳香水 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
叔母はさんざんいじくりまわした果てに、気乗りのしない顔をして男の手へ品物を返した。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
細君はまだ雑誌の摘み切りを手にしていじくっている小供の傍へ往って、その摘み切りを引ったくっておいていきなり抱きかかえた。その荒あらしい毒どくしいおこないが彼の神経をとがらしてしまった。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
忠公と二人で森川さんの電気の機械をいじくった。乃公は何んとも無かったが、忠公は電流とかに触れて気絶した。すると森川さんは医師の家で人が左様そう度々気絶しては商売にかかわると言って怒った。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
孫三郎は、箱を手に取って、いじくりまわした。
元禄十三年 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「いや、真平まっぴらだ」と云って兄は苦笑いをした。そうして大きな腹にぶら下がっている金鎖を指の先でいじくった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
陽子の足許の畳の上へ胡坐あぐらを掻いて、小学五年生の悌が目醒し時計の壊れを先刻さっきからいじくっていた。
明るい海浜 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)