平時いつ)” の例文
銀之助の不平は最早もう二月ふたつき前からのことである。そして平時いつこの不平を明白あからさまに口へ出して言ふ時は『下宿屋だつて』を持出もちだす。決して腹の底の或物あるものは出さない。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
然るにこの位な揶揄やゆ弄言ろうげんは平生面と向って談笑の間に言合いいあうにかかわらず、この手紙がイライラした神経によっぽどさわったものと見えて平時いつにない怒気紛々たる返事を直ぐ寄越よこした。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
住職の老人には私は平時いつ顔馴染かおなじみなので、この時談はなしついでに、先夜見たはなしをすると、老僧は莞爾にっこり笑いながら、恐怖こわかったろうと、いうから、私は別にそんな感もおこらなかったと答えると
子供の霊 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
冬の事で、四隣あたりいたって静かなのに、かねが淋しくきこえる、私は平時いつも、店で書籍が積んであるかたわらに、寝るのが例なので、その晩も、用をしまって、最早もう遅いから、例の如く一人でとこに入った。
子供の霊 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
その頃其処そこにあった蕎麦屋の暖簾のれん越しに、時計を見ると、まだ十時五分前なので、此処ここから三分もかかればうちへ帰れるのだから、たしか平時いつもの通り十時前には帰れると安心して、橋を渡って行った。
死神 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)