巾着切きんちゃくきり)” の例文
今村に紙幣さつを渡している時である。さっきから人に押されながら立っていた巾着切きんちゃくきりの黒眼鏡が、すぐに彼女のすがたを見出して
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
八五郎は遊んでいる片手を働かせて、内懐から腹掛の丼から、犢鼻褌ふんどしの三つまでさぐっております。女巾着切きんちゃくきりと思込んだのです。
巾着切きんちゃくきりかテキ屋みたいに安っぽい吾輩の顔の造作が、お蔭で華族の若様みたいなフックリした感じに変って来たから不思議だ。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「じゃ、まあ、知らないとして。それから、お話するですがね。早瀬は、あれは、攫徒すりの手伝いをする、巾着切きんちゃくきりの片割のような男ですぞ!」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
少し眼に怖味こわみはありますが、もっと巾着切きんちゃくきりのような眼付では有りません、堅いお屋敷でございますから服装なりは出来ません、小紋の変り裏ぐらいのことで、厚板の帯などを締めたもので
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
うっかりあの前へ行ってポカンと立っていると巾着切きんちゃくきりに巾着を切られるから用心しろ、ぐずぐずしていると迷児まいごになるから、おれの袖をしっかりつかめえていろ、自分の足を踏まれぬように
世間がこんなものなら、おれも負けない気で、世間並せけんなみにしなくちゃ、りきれない訳になる。巾着切きんちゃくきりの上前をはねなければ三度のごぜんいただけないと、事がまればこうして、生きてるのも考え物だ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
春から大した御用もなく、巾着切きんちゃくきりや空巣狙いを追い廻させられて、銭形の親分も少し腐っていた最中だったのです。
巾着切きんちゃくきりの黒眼鏡の常は、前の日から馴じみの待合の奥にしけこんでいた。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時々は彼らに対して気の毒だと思うほど、私は油断のない注意を彼らの上にそそいでいたのです。おれは物をぬすまない巾着切きんちゃくきりみたようなものだ、私はこう考えて、自分がいやになる事さえあったのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おい、おれを、まあ、何だと思う。浅草田畝たんぼに巣を持って、観音様へ羽をすから、はやぶさりき綽名あだなアされた、掏摸すりだよ、巾着切きんちゃくきりだよ。はははは、これからその気で附合いねえ、こう、頼むぜ、小父さん。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ナーニあれは巾着切きんちゃくきりだ」
「おや、おや、おや、——それじゃ八五郎親分、お前さんは泥棒や巾着切きんちゃくきりを逃がしてお役目が済むというんですか」
王子のお滝という、名題の女巾着切きんちゃくきり、二十四五の豊満な肉体と、爛熟らんじゅくし切った媚態びたいとで、重なる悪事をカムフラージュして行く、その道では知らぬ者のない大姐御おおあねごです。