山茶花さざんくわ)” の例文
それから又座敷からかはやを隠した山茶花さざんくわがある。それの下かげの沈丁花ぢんちやうげがある。鉢をふせたやうな形に造つた霧島躑躅つつじの幾株かがある。
たゞ、いひかはされるのは、のくらゐなこと繰返くりかへす。ときに、鶺鴒せきれいこゑがして、火桶ひをけすみあかけれど、山茶花さざんくわかげさびしかつた。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ひるまから空にかかつてゐた月が、輝きはじめて、細道のかどに咲いてゐる山茶花さざんくわのはなが、つめたく白く見えてゐました。
百姓の足、坊さんの足 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
木の葉は緑にかゞやき、赤白の山茶花さざんくわや椿が美しく咲いてるので、ハラ/\と日に輝いて落ちる木の葉に病む身をかなしむ事も出来なかった。
青白き夢 (新字旧仮名) / 素木しづ(著)
鼠色の壁の塀の中央をり抜いた様な感じのするその入口の前の生垣には、山茶花さざんくわが白く咲いて居た。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
だが、あきふかくなると、薔薇がつた。きくれた。さうして、枯葉かれはつもつた間から、やうやさびしげな山茶花さざんくわがのぞき出すと、北にらなつた一れんくらかべが、俄然がぜんとして勢力せいりよくをもたげ出した。
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
庭木の大部分は松根が生前好んで植ゑた木犀もくせい山茶花さざんくわ、もつこく等の常緑樹であつた。それを特別に思ひ出すのは卯女子なのであつたが、父もそれを考へてゐたかどうか、そこまでは解らなかつた。
鳥羽家の子供 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
その泣いた目で見たぼやけた山茶花さざんくわの枝ぶりと、それのぼやけてむらがつた花の一つ一つが、不思議と