寝鎮ねしず)” の例文
旧字:寢鎭
日中ならすぐ人に見とがめられるし、病人も気が付くから、これは、夜中人の寝鎮ねしずまった時の仕業に相違ない、とこう申すのでございます。
その時はもう雪も止んで、十四日の月が皎々こうこうとして中天ちゅうてんに懸っていた。通りの町家は皆寝鎮ねしずまっていた。前を見ても後を見ても、人通りはない。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
お君としては、兵馬の寝鎮ねしずまるのを待って、用意の上に用意しての覚悟でありました。けれども、油断なき兵馬の心に乗ずることができませんでした。
それからモーひと申上もうしあげてきたいのは、あの願掛がんがけ……つまり念入ねんいりの祈願きがんでございまして、これはたいていひと寝鎮ねしずまった真夜中まよなかのものとかぎってります。
気のせいか知れないけれども、病院中がヒッソリと寝鎮ねしずまっている中に、玄関の方向から特等室の前の廊下へかけては、何かしらバタバタと足音がしているようである。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
渠はしばらく惘然ぼうぜんとして佇みぬ。その心には何を思うともなく、きょろきょろとあたりをみまわせり。幽寂に造られたる平庭を前に、縁の雨戸は長く続きて、家内は全く寝鎮ねしずまりたる気勢けはいなり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それから二た刻ばかり、江戸の街々もすっかり寝鎮ねしずまった頃、平次は横山町の自身番を覗きました。
そうして一家が寝鎮ねしずまった十二時頃を見計って杉扉すぎどの鍵を開けたが、想像の通り、器械イジリに慣れている一知にとって、旧式の鍵を外すくらいは何でもない事であった。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「もっとも皆んな寝鎮ねしずまってから、脱け出そうと思えば、誰でも自由に脱け出せますがね」
近所隣家となり寝鎮ねしずまった、深夜の淋しい横町である。ほかには誰も居ない空屋同然の家の中で、両切りょうぎりを吹かしながらその禿頭を睨んでいた犯人の気持は誰しも想像出来るであろう。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
母屋おもやの雨戸の掛金を内側からはずしておく事や、土蔵くらの鍵だの、蝋燭だのいうものを用意しておく事であったろうと思われるが……それから呉一郎は家中が寝鎮ねしずまるのを待って母屋へ忍び込んで
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)