寛恕かんじょ)” の例文
斯様かような記憶の誤りが他にも有るのではないかとはばかられて、憶い出の筆を取ることに躊躇されるのであるが、疎漏の罪は暫く寛恕かんじょを願いたい。
木曽駒と甲斐駒 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
二年も前からの旧約をお待ちくだすった寛恕かんじょの手前にも、ぼくは自分の健康ばかり言い訳にいっていられない気持になり
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして国を出て来たというこの男の憤りと恨みとはいかなる寛恕かんじょの言葉をも聞入れまいとするようなところがあった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
もし奇蹟きせきがあって、あの人が直ったら、自分は無論あの人と一しょに暮すだろう。あの人の事を思えば、優しい、寛恕かんじょしてりたい悲哀がきざして来る。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
以後、決して他でおうわさ申しませぬゆえ、のたびに限り、御寛恕かんじょください。とんだところで大失敗いたしました。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
自分はその時、内田の奥さんに内田の悪口をいって、ペテロとキリストとの間に取りかわされた寛恕かんじょに対する問答を例に引いた。いゝえ、それはきょうした事だった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
こういうわけで、わたしはわたし自身について格別の関心をもたない読者も、わたしがこの本のなかでこれらの質問の若干を答えようとするのを寛恕かんじょしていただきたい。
いくぶんの寛恕かんじょをもってこれに臨むということもできるかもしれない。
破片 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかしそのあとから、吉川夫人と自分との間によこたわる一種微妙な関係を知らない以上は、誰が出て来ても畢竟ひっきょうどうする事もできないのだから仕方がないという、嘆息を交えた寛恕かんじょの念も起って来た。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただいかんせん這個しゃこの一論は、私の経済論の体系の一部を成すもので、これに触れずして論を進むるは事すこぶる困難なるを覚ゆるがままに、しばらく読者の寛恕かんじょを請うて再び同一の論を繰り返す。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
これをその筋の人に言わせたら、規則の何たるをわきまえない無知と魯鈍ろどんとから、村民自ら犯したことであって、さらに寛恕かんじょすべきでないとされたであろう。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
僕は決して孔孟の思想を軽んじてはいません。その思想の根本は、あるいは仁と言い、或いは中庸と言い、或いは寛恕かんじょと言い、さまざまの説もありますが、僕は、礼だと思う。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
昔は一国の帝王が法王の寛恕かんじょを請うために、乞食の如くその膝下ひざもとに伏拝した。又或る仏僧は皇帝の愚昧なる一言を聞くと、一拶いっさつを残したまま飄然ひょうぜんとして竹林に去ってしまった。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
今其てつを蹈んで、無邪気な山人の心を勝手に忖度そんたくし、而も夫をもって自己の不明を弁解するの具に供しようとすることは、真に恥ず可きの至りであるが、この際暫く読者の寛恕かんじょを得て筆を進めたい。
黒部川を遡る (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
一、題材は、春の幽霊について、コント。寸志、一枚八円にて何卒。不馴れの者ゆえ、失礼の段多かるべしと存じられそうろうが、只管ひたすら寛恕かんじょ御承引のほどお願い申上げます。師走九日。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
返す返す済まないが、右の事情を御賢察のうえ御寛恕かんじょ下さい。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)