寂寥さびしさ)” の例文
高瀬は屋外そとまで洋燈ランプを持出して、暗い道を照らして見せたが、やがて家の中へ入って見ると、余計にシーンとした夜の寂寥さびしさが残った。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
終日懊悩おうのう。夕方庭をぶら/\歩いた後、今にも降り出しそうな空の下に縁台えんだいに腰かけて、庭一ぱいに寂寥さびしさく月見草の冷たい黄色の花をやゝ久しく見入った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
寂寥さびしさに堪えず、ひるから酒を飲むと言出した。細君の支度の為ようが遅いのでぶつぶつ言っていたが、膳にせられたさかながまずいので、遂に癇癪かんしゃくを起して、自棄やけに酒を飲んだ。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そのわざの為にはかゝる寂寥さびしさにも慣れたれば、夜出でゝ夜帰るに、こはさといふもの未だ覚え知らず、五月雨さみだれの細々たる陰雨のうちに一二度はかの燐火をも見たれど、左して怖るゝ心も起らじと言へり。
鬼心非鬼心:(実聞) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
二十間も座敷の数有る大構おほがまへの内に、唯二人の客を宿せるだに、寂寥さびしさは既に余んぬるを、この深山幽谷の暗夜におほはれたる孤村の片辺かたほとりれる清琴楼の間毎にわたる長廊下は、星の下行く町の小路より
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
月々丑松から送る金の中からすきな地酒を買ふといふことが、何よりのこの牧夫のたのしみ。労苦も寂寥さびしさも其の為に忘れると言つて居た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
こうした御慣れなさらない山家住やまがずまいのことですから、さて暮して見れば、都で聞いた田舎生活いなかぐらし静和しずかさと来て寂寥さびしさ苦痛つらさとは何程どれほど相違ちがいでしょう。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
牛の性質をく暗記して居るといふ丈では、所詮しよせんあの烏帽子ゑぼしだけの深い谿谷たにあひに長く住むことは出来ない。気候には堪へられても、寂寥さびしさには堪へられない。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
盛な歓楽の声は二階に湧上つて、屋外そとに居る二人の心に一層の不愉快と寂寥さびしさとを添へた。丁度人々は酒宴さかもりの最中。灯影ほかげ花やかに映つて歌舞のちまたとは知れた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
かしこにこゝに寂寥さびしさ
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
あな寂寥さびしさや其の道は
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
いつはり薄き寂寥さびしさ
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)