孤独ひとり)” の例文
旧字:孤獨
ですから銀子さん、私の心は決して孤独ひとりではありません、——節操は女性をんなの生命ですもの、王の権力も父の威力も、此の神聖なる愛情の花園を犯すことは出来ません
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ほしは、平常いつも孤独ひとりで、不平ふへいばかりいっているかしのあわれにおもったのでありましょう。そのやさしい、なみだぐんだつきで、こんもりとくろずんだらしていましたが
大きなかしの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「昔」を負うて孤独ひとりの路を喘いでゐる僕は乾涸ひからびた朽木のやうな侘びしさに溺れてしまふ。
海の霧 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
「ご執権さまには、淋しいのがお嫌い。また常にお孤独ひとりがお嫌いでした。みなして、さいごのお相手を勤めさせていただこうぞと、申し合せて、これにひかえておりました」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「で、叔父さん、Uさんが言うには、考えて見れば橋本さんも御気の毒ですし、ああして唯孤独ひとりで置いてもどうかと思うからして、せめて家族の人と手紙の遣取やりとり位はさせてげたいものですッて」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私の乳母さえも年役に、若い女のともすれば騒ぎたがるのをしかりながらそわそわ立ち働いていて私をば顧みることが少なくなった。出産の準備したくに混乱した家の中で私は孤独ひとりをつくづく淋しいと思った。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
静かなる、はた孤独ひとり山間やまあひの霧にうもれて
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
思う事久しけれど、孤独ひとりの力及び難く
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
今でも訪ふ人なき秩父の山中に孤独ひとりで居る、世の中は不人情なものだと断念してどうしても出て来ない、——花さん、屈辱はぢを言へば、貴女一人の生涯しやうがいではない、だ屈辱の真味を知るものが
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
斯様かように静かな目覚めの後に、そして駄夫はやうやくにして自分はこの部屋に孤独ひとりなること、そして昨夜は不思議に花やかな訪れがあつて、二人の新らしい登場者達と枕を並べて寝た筈のこと
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
「私に一人の伯母があるのです、世をいとうて秩父の山奥に孤独ひとりして居ります、今年既に七十を越して、钁鑠くわくしやくとしては居りますが、一朝私の奇禍きくわを伝へ聞ませうならば——」語断えて涙滴々てき/\
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
それでも僕は驚くばかり安心して、僕の孤独ひとりを噛みしめてゐる。
海の霧 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)