ひと)” の例文
が、心着いたら、心弱いひとは、堪えず倒れたであろう、あたかもそのうなじの上に、例の白黒まだらいぬうずくまっているのである。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あの、幻の道具屋の、綺麗なひとのようでもあったし、裲襠姿振袖うちかけすがたふりそでの額の押絵の一体のようにも思う。……
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
玄関も廊下も晴がましい旅籠はたごまで送り返すのを猶予ためらって、ただ一夜——今日また直ぐ逢う——それさえ名残惜なごりおしそうに、元気なひとに似ず、半纏はんてんの袖を、懐手ふところでねながら
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、しかし、その時のは綺麗な姉さんでも小母さんでもない。不精髯ぶしょうひげ胡麻塩ごましお親仁おやじであった。と、ばけものは、人のよくいて邪心を追って来たので、やさしひと幻影まぼろしばかり。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
またこの形は、水戸屋がむかしの茶屋旅籠のままらしくて面白し……で、玄関とも言わず、迎えられたまま、そのわきから、すぐ縁側へ通ったのですが、優しいひとが、客を嬉しそうに見て
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)