天辺てつぺん)” の例文
旧字:天邊
剪刀はさみの刃音が頭の天辺てつぺんで小鳥のやうにさへづつてゐるのを聞きながら、うと/\としてゐると、突如だしぬけに窓の隙間から号外が一つ投げ込まれた。
門野かどのとなりの梧桐の天辺てつぺんみづにして御目にかけると云つて、手桶の底を振りげる拍子に、すべつて尻持をいた。白粉草おしろいそうが垣根のそばで花を着けた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
彼が宮を追ひてまろび落ちたりし谷間の深さは、まさにこの天辺てつぺんの高きより投じたらんやうに、冉々せんせんとして虚空を舞下まひくだ危惧きぐ堪難たへがたかりしを想へるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
武さんは、いつも蜜柑山の天辺てつぺんで、朝日を拝むといふ早起で、僕のうちの朝餉の頃には既に一仕事を終つて、噴井戸に面した縁側に腰かけながら一本の酒徳利を傾けてゐた。
肉桂樹 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
もう、そこが天辺てつぺんよ……。
浅間山 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
英詩人野口米次郎氏の頭の天辺てつぺんはやくから馬鈴薯じやがいものやうな生地きぢを出しかけてゐた。氏は無気味さうに一寸それに触つてみて
書肆ほんやはへと/\になつて、やつ縁端えんばなに腰をおろすなり、原稿の談話はなしを切り出すと、蘆花氏は頭の天辺てつぺんから絞り出すやうな声で
すると寺内首相もその気になつて、急に謹直らしい顔をして、鼻先から禿頭の天辺てつぺんにかけて出来るだけ誠意でてかてかさせようとするが、うまく手捕に出来るかうかは疑はしい。