大口おおぐち)” の例文
いちど室内へ駈けもどった信長は、白綾の小袖の上に、大口おおぐちはかま穿うがち、奥歯をむほどな力で、そのひもを結んでいた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
恍惚うっとりした小児こどもの顔を見ると、過日いつかの四季の花染はなぞめあわせを、ひたりと目の前へ投げて寄越よこして、大口おおぐちいて笑った。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「や、危険きけん! 危険きけん!」と、あとじさりをすると、電信柱でんしんばしらをたたいて、ははははと大口おおぐちけてわらった。
電信柱と妙な男 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「やっ、貴様か。貴様はなんというひどい——」大口おおぐち開いてつかみかかってくるドン助を、敬二はあわててつきとばした。ドン助は赤ん坊のように、どたんと倒れた。
○○獣 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは前年の夏、兄や賀古かこ氏が、小出こいで大口おおぐち、佐佐木氏等を浜町はまちょうの常磐にお招きして、時代に相応した歌学を研究するために一会を起そうという相談をしたのでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
播磨守が手をつと、蓬莱山が二つに割れて、天冠に狩衣かりぎぬをつけ大口おおぐち穿いた踊子が十二、三人あらわれ、「人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻のごとくなり」と幸若こうわかを舞った。
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
島の西がわ、天狗てんぐつめとよぶ岩の上に、さっきからひとりの神官しんかん、手にしょうの笛をもち、大口おおぐちはかまをはき、水色のひたたれを風にふかせて立っている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、壺をとりに行くのじゃ。それについて、なにかと便宜もあろうから、吉利支丹になるがええ……くわしいことは拙斎の入道に言うておいた。大口おおぐちへ行って聞いてくれい。退ってもええぞ」
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
柿丘は、化物のような大口おおぐちを開いて、五本の手の指をグッと歯と歯の間にさし入れると、笑いとも泣いているとも分つことの出来ないような複雑な表情をして、ワナワナとその場にうちふるえていた。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、大口おおぐちをききました。
猟師と薬屋の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
と又八が大口おおぐちをあいてあざわらっていると、折もおりだ。祈祷の列に加わっていった足助主水正あすけもんどのしょう佐分利さぶり五郎次などが、さんばら髪に、血汐ちしおをあびて逃げかえってきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大口おおぐちをあいてわらいながらいった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)