売女ばいじょ)” の例文
旧字:賣女
菊地半九郎は売女ばいじょにうつつをぬかして大小を手放したとただ一口ひとくちにいわれては、武士の面目にもかかわる。支配頭への聞えもある。
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そして、客の望みによっては、程近きふもとの町から、売女ばいじょの類を招いて、周囲の風物にふさわしからぬ、馬鹿騒ぎを演じることも出来るのです。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
二、三十年間あらゆる階級の売女ばいじょれ親しみ、取る年につれて並大抵の遊び方では満足しなくなって、絶えず変った新しい刺㦸しげきを求めていた。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
下女が没趣味だとすると、私の身分ではもう売女ばいじょに触れて研究する外はないが、これも大店おおみせは金が掛り過るから、小店で満足しなければならん。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
たとえその夜、甲谷がお杉を追い立てるようなことをしたとはいえ、それならそれで、お杉も売女ばいじょにならずともすますことは出来たのではないか。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
売女ばいじょのうちでもいちばんいやしい夜鷹、二十文か三十文の金で、女のいちばん大切なみさおを切売りする女、この女は十両の金が欲しくはないのだろうか
こう思うと、今まで上天のきょうに置いた美しい芳子は、売女ばいじょか何ぞのように思われて、その体は愚か、美しい態度も表情も卑しむ気になった。で、その夜はもだえ悶えてほとんど眠られなかった。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
男のざんそを人前もなく喋舌しゃべり立てて、男が自分を虐待ぎゃくたいして、ほかで馴染んだ売女ばいじょをひき入れようとしていることだの、この家が貧乏なために、自分が持ち物を売りつくしてみついだのと
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで母は女に盛装させ、その附近を徘徊させていたが、案の如く知事の目にとまり、われて結婚する迄に漕ぎつけた。その時知事からは千元贈ろうとしたが、母は自分の娘は売女ばいじょではない。
これは売女ばいじょたぐいだ。物を売ることにかこつけて、色を売らんとする女。よく温泉場などにあった種類の女——おれをそそのかしに来たのがおぞましい。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その当時、京の土地で公認の色町と認められているのは六条柳町やなぎちょうの遊女屋ばかりで、その他の祇園ぎおん、西石垣、縄手、五条坂、北野のたぐいは、すべて無免許の隠し売女ばいじょであった。
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
慶三にはお千代の不始末が今となっては更に不潔にも不快にも思われなかった。却ってそれらの為めに一層恋しく思われた。お千代という女はよくよく売女ばいじょに出来上った女である。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
是は相手が正当でなかったから、即ち売女ばいじょであったからかというに、そうでない。相手は正当の新婦と相知る場合にも、人は大抵皆然うだと云う。殊に婦人が然うだという。何故だろう?
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
けれど、妹が売女ばいじょだなどという沙汰が、人に知られては外聞もわるし、この萱乃にも、つい初手に打ち明けかねて、近ごろになって、そう申しても、もう信じてもくれないのでございます。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうか、では道中は、別してまた色慾を慎まなければならぬ……道中には、飯盛めしもりだの売女ばいじょだのというものがあって、そういうものには得て湿毒しつどくというものがある」
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お千代は玩弄物にされる事をば別に恥辱とも苦痛とも何とも思わぬ様子で、時には却て玩弄物にされるのを面白そうに嬉しがっているような風さえ見える。お千代は根からの売女ばいじょである。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
切通しの坂をのぼりきッた所で、このあたり根生院こんじょういんの森と棟梁とうりょう屋敷の黒塀くろべいを見るほか、明りらしいものは、湯島新地ゆしましんち大根畑だいこんばたけの中にチラホラする隠し売女ばいじょの何軒かが数えられるに過ぎません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
然るをなほも古き机の抽斗ひきだしの底、雨漏る押入おしいれの片隅に、もしや歓場かんじょう二十年の夢の跡、あちらこちらと遊び歩きし茶屋小屋の勘定書、さてはいづれお目もじの上とかく売女ばいじょが無心の手紙もあらばと
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)