うづ)” の例文
而して駒ヶ嶽登臨の客は多くこの地よりするを以て、夏時かじ白衣はくい行者ぎやうじや陸續としてくびすを接し、旅亭は人を以てうづめらるゝと聞く。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
むかしに返し得べき未練の吾に在りとや想へる、愚なる精衛のきたりて大海だいかいうづめんとするやと、かへりてかたくなに自ら守らんとも為なり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
手を伸べて燈をき消せば、今までは松の軒にたゝずみ居たる小鬼大鬼共哄々と笑ひ興じて、わが広間をうづむる迄に入り来れり。
松島に於て芭蕉翁を読む (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
仲見世は、雷門跡より仁王門に至る七十余間の間にして、幅五間余を敷石にてうづめ、両側に煉瓦造りの商店百三十余あり、軒を並べ、店を開く。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
中にも月桂ラウレオの枝もて車輪をかざりたるあり。そのさま四阿屋あづまやの行くが如し。家と車との隙間をば樂しげなる人うづめたり。窓には見物の人々充ちたり。
此故に縦令たとひおしろいの広告が全紙面をうづむとも、粉白ふんはくくるに意なきものがこれを咎めようとはせぬのである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
仲見世は、雷門跡より仁王門に至る七十余間の間にして、幅五間余を敷石にてうづめ、両側に煉瓦造りの商店百三十余あり、軒を並べ、店を開く。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
わが胸の空虚は書卷の能くうづむるところにあらざりき。ベルナルドオはわが無二の友なり。然るに今はその音容に接することのいとはしくなれるぞ怪しき。
引出の中は、大部分は手紙の反古ほごうづまつてゐる。封筒に這入つてゐるのもある。這入つてゐないのもある。横文字のもまざつてゐる。絵葉書も雑つてゐる。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
平生いつもならば人も滅多に来ない鎮守の森の裏山は全く人の影を以てうづめられて了つた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
たとひ優しきなさけの蔓草の生ひまつはりて、これをおほふことあらんも、能く全くこれをうづむることなし。
強ひて時間を限劃げんくわくしようとしても、三月七日の後、十二月みそかの前にはうづむべからざる空隙がある。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
序は編録者安策の撰む所で、巻初の一頁をうづめてゐる。わたくしは此書の刊行せらるべきシヤンスは、葌斎かんさい詩集に比して更に小なるを知るが故に、今序の全文を抄出する。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)