坊間ぼうかん)” の例文
あるいはさっ州より起これりといい、あるいは外国より来たるというも、みな坊間ぼうかんの風説にとどまりて、確固として信を置くべきものなし。
妖怪玄談 (新字新仮名) / 井上円了(著)
それにつけても遊戯の書は、砲火のむと共に数知れず坊間ぼうかんに現われたのを見てわたくしは鴎外先生の言葉を思い出さねばならなかったのだ。
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
何でも坊間ぼうかんの説によれば、張氏の孫は王氏おうしの使を受けると、伝家の彝鼎いていや法書とともに、すぐさま大癡たいちの秋山図を献じに来たとかいうことです。
秋山図 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
なるべく簡明なほうがよい。このたびわが塾に於いて詩経の講義がはじまるのであるが、この教科書は坊間ぼうかん書肆しょしより求むれば二十二円である。
ロマネスク (新字新仮名) / 太宰治(著)
中にも最も悪句少きは『猿蓑さるみの』(俳諧七部集の内)、『蕪村七部集』『蕪村句集』ぐらいなるべし。(『故人五百題』は普通に坊間ぼうかんに行はれて初学には便利なり)
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
剣鬼左膳、夢を気にするがらでもなく、また坊間ぼうかん婦女子のごとくそれに通じているわけでもないが……。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
かりに今日、坊間ぼうかんの一男子が奇言をくか、または講談師の席上に弁じたる一論が、偶然にも古聖賢の旨にかなうとするも、天下にその言論を信ずる者なかるべし。
読倫理教科書 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
近年、著書ちょしょ坊間ぼうかんに現わるるものはなはだ多し。その書の多き、したがっ誤聞ごぶん謬伝びゅうでんもまた少なからず。
紅き色には砒石ひせきの混じたるあり。坊間ぼうかんに販売する染色料の唐紅は多量の砒石を含有するを以て最も危険なり。安菓子にこれを用いたるものあり。また小児の玩具にこれを塗りたるもあり。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
これより先、裸美の画坊間ぼうかん絵草紙屋えぞうしやに一ツさがり、遂に沢山さがる。道徳家なげき、美術家あきれ、兵士喜んで買い、書生ソッと買う。しかしてその由来を『国民の友』の初刷に帰する者あり。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
坊間ぼうかんの浮説はこのへんから次第に深刻な様相を呈してくる。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
坊間ぼうかん、多少こんな取沙汰がないでもなかった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
文政八年初代豊国歿するや、その門人歌川国重くにしげみずから二代豊国の名を犯しぬ。本郷ほんごうに住みしを以て本郷豊国といふ。今日坊間ぼうかんにおいて往々初代豊国のふでと称して国重のを売るものあり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)