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坂上
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さかがみ
呼ばれた
坂上は、
此の
聲を
聞くと、
外套の
襟から
先づ
悚然とした。……
誰に
似て
可厭な、
何時覺えのある
可忌しい
調子と
云ふのではない。
細い
笛の
音で、やがて
木賃宿の
行燈の
中へ
消えるのであらうと、
合點して、
坂上も
稍もの
言ひが
穩かに
成つたのである。
言に
引向けられたやうに、三
人の
並んだ
背後を
拾つて、
坂下から、
上の
町へ、トづらりと
視ると……
坂上は
今夜はじめて
此の
路を
通るのではない。