囲繞いじょう)” の例文
旧字:圍繞
それへ油単ゆたんを上から冠せた、そういう人と馬とを囲繞いじょうし、十数人の荒くれ男が、鉄砲、弓、槍などを担いで、護衛して歩いているからであった。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
◯神の造り給いし万物に囲繞いじょうされて我らは今既に神のふところにある。我らは今神にまもられ、養われ、育てられつつある。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
これに囲繞いじょうされる生活が、人間の美意識を濁らせる事は当然です。天才が作るわずかなものが美しいとも、それによってこの世は美しくならないのです。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ほぼ等しい大山岳圏に囲繞いじょうせられているから、北アルプスの高山で見るような、広々とした眺望はられない。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
或一事を行う度に生活の中心がその一事に移動して焦点を作り、他の万事は縁暈えんうんとしてそれを囲繞いじょうしている。
母性偏重を排す (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
そして、彼女の麗わしさを囲繞いじょうし秘蔵しているように思われる燐然さんぜんたる雰囲気の中に、最も微妙に想像された一ついの翼が浮んでいるのが、かろうじて見分けられた。
太子薨去こうきょに対する万感をこめての痛惜やる方ない悲憤の余り、造顕せられた御像と拝察せられ、他の諸仏像とは全く違った精神雰囲気が御像を囲繞いじょうしているのを感ずる。
美の日本的源泉 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
それが敵対と無理解とに囲繞いじょうせられて、人に棄てられ殺される道であるとしても、よろしい、我は神の我に命じ給うた使命をば、神の定め給うた方法によって果たそう。
しかし、ある種の人間を公平に批判するには、あらかじめ二、三の先入観念と、普通われわれを囲繞いじょうしている人や事物に対する日常の習慣を、捨ててかからなくちゃなりません。
そのお祖師様やお祖師様を囲繞いじょうしている大智識達の作ったこれらの句は、たしかに俳句の大道を指示したものとしてみることができるのであります。そこでこういう結論に到着します。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
貝島が敗残の一家を率いて、始めて其処へ移り住んだのは、或る年の五月の上旬で、その町を囲繞いじょうする自然の風物が、一年中で最も美しい、最も光り輝やかしい、初夏の日の一日であった。
小さな王国 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
絶佳ぜっか明媚めいび山水さんすい粉壁朱欄ふんぺきしゅらん燦然さんぜんたる宮闕きゅうけつうち、壮麗なる古代の装飾に囲繞いじょうせられて、フランドル画中の婦女は皆脂肪あぶらぎりてはだ白く血液に満ちて色赤く、おのが身の強健に堪へざる如く汗かけり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
支那に於ける税の費途如何いかんというに、王者はこれを以て土木を興し、宮殿を営み、奢侈しゃしを尽せば、その身辺を囲繞いじょうする官僚はまたこれを以て土地を買い、貨殖を謀り、子孫のために身後の計をする。
三たび東方の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
幽麗なる孟宗竹林に囲繞いじょうせられたる竹籠作り讃岐ノ造麻呂の家。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
明治四十年頃からの漱石氏はますます創作に油が乗って来て、その門下に集まって来た三重吉、豊隆とよたか草平そうへい臼川きゅうせんその他の人々に囲繞いじょうせられて文壇に於ける陣容も整うて来た事になった。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)