喜憂きゆう)” の例文
刻々と、方向のうごいてゆく時勢に対して、敏感に喜憂きゆうを先にするのは、何といっても、こうした若い人々の仲間だった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
都合つごうのいいこともあれば都合の悪いこともある。しかし今更いまさらこのことを喜憂きゆうしても始まらない。本能的なものが運命をそう招いたと思うより仕方しかたがない。
巴里のむす子へ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そもそも海をる者は河を恐れず、大砲を聞く者は鐘声しょうせいに驚かず、感応かんのうの習慣によってしかるものなり。人の心事とその喜憂きゆう栄辱えいじょくとの関係もまたかくのごとし。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
余等が帝劇のハムレットに喜憂きゆうそそいで居る間に、北多摩きたたまでは地が真白になる程雹が降った。余が畑の小麦こむぎも大分こぼれた。隣字となりあざでは、麦はたねがなくなり、くわ蔬菜そさいも青い物全滅ぜんめつ惨状さんじょううた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
残る者は、ここを離れては、他に生活のるところも自立の能もない者か、さもなくば、栄枯、生死、喜憂きゆうもともに、あくまで主従の道に生きようとする真の忠臣か——だけである。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
数で云うたらたった二十万坪の土地、喜憂きゆうくる人と戸数と、都の場末の一町内にも足らぬが、大なる人情の眼は唯統計とうけいを見るであろうか。東京は帝都ていと寸土すんど寸金すんきん、生がさかれば死は退かねばならぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)